※生徒×先生な現パロ

melting snow

 高校の保健室に置いてあるベッドは高価なものではない。サイズにも負荷にも余裕をとって作られているとはいえ、長身の男二人が体重をかければ軋んで当たり前だった。傾いた西日が差し込むはずの室内は背の高い棚に日光を遮られ、薄暗い空間には他の誰もいない。三つ並んだベッドのうちの一つでジョセフは声をひそめることもなく口を開いた。

「ほら、もっと腰振ってよシーザーちゃん」
「っく、ヒ、むり、ジョジョ……ッ」

 頭の後ろで腕を組んで、白いベッドに寝そべるジョセフは自分の上にまたがる男に意地の悪い視線を向けた。ここ保健室の主であるシーザーはカッターシャツをはだけさせ、むき出しの下肢はジョセフの性器を飲み込んでぐずぐずに濡れている。乱れた着衣の上にはおったままの白衣が彼の職業とジョセフとの関係を物語っていた。

 彼はジョセフが高校三年生になる春に赴任してきた保健医だった。この学校が出身校であるというシーザーはすぐに環境に慣れ、その容姿からしばらくは保健室が女子生徒であふれるほどの人気を集めた。男性陣から少なくないやっかみの視線を浴びるシーザーだったが、ジョセフはそんな頃から正当な理由、つまり治療のために彼の元を訪れる数少ない男子生徒だった。
 その巨躯から誤解されがちだが、ジョセフは決まった運動部に所属しているわけではない。大会が近づく度にバスケ部やらアメフト部から誘いを受け、気が向けば試合に出るといった助っ人ポジションにいた。部活の友人がいないせいか一人で出歩くことが多く、そこで試合でこてんぱんに打ち負かした他校の生徒に喧嘩をふっかけられ怪我を作るのだという。「今日はどうした」「ちょォっと喧嘩しちゃってェ」、二人の間で春から何度も繰り返された会話だ。その回数が10回を越えたあたりでシーザーは問いかけが無駄であることを悟り、何も言わずに怪我の治療をしてやることにした。折しも、ミーハーな女子生徒たちが新任の保健医に興味を示さなくなった頃だった。

「……ほら、終わったぞ。早く教室に戻れ」
「エー、シーザーったらケチー。怪我人なんだし、もうちょっと休んでいってもいいんじゃねえかなあ」
「数は多いが擦り傷だろう。お前が殴った相手のほうがよっぽど痛いはずだ」
「かもな。そういや、シーザーって喧嘩はやめろとか言わないよな」

 あいつらはいっつもうるさいんだぜえ、とジョセフは担任や生活指導の教師の名前を挙げた。普段はしつこく叱られているのだろう、たしなめるようなことは口にせず治療だけを施してくれるシーザーに疑問を覚えたらしい。そもそも年上で教師の立場にあるシーザーを呼び捨てている時点で怒られてもおかしくないのだが、丸椅子の上で窮屈そうに膝を曲げるジョセフに注がれるシーザーの視線はあくまでやわらかかった。

「……喧嘩なんて今しかできねえからな。お互い死なないくらいで存分にやっとけ」
「うわ、それ先公の台詞かよ」
「だいたいお前に何言ったところで無駄だろう。わかったらさっさと行け、ジョジョ」
「わーったよ、戻りますゥ……って、シーザー?」

 立ち上がったジョセフが驚いたように顔を上げる。「今なんて」と呟く彼にシーザーは笑って、保健室を訪れる生徒が記入する記録帳を指で示した。

「お前、いつも自分の名前をJOJOって書くだろう。そう呼んでほしいんだと思ったんだが、違ったか?」
「……違わねえ、けど」

 それまでシーザーは彼をジョースターと呼んでいた。校内には同じ苗字の生徒も居ないし、特に不都合はなかったのだが、記録を整理するためにぱらぱらと紙をめくってみればそこにジョセフ・ジョースターの綴りはなく、代わりに常にJOJOと簡潔な四文字が書かれていた。
 フルネームを書く手間を省くジョセフの横着かもしれないと思ったが、口に出してみると思いのほかその響きは馴染んだ。ジョジョ、ともう一度目の前の生徒に呼びかけると嬉しそうに目尻が緩む。愛称を繰り返して呼ぶうちにすこしだけ距離が縮まった気がした。

 生徒と保健医という関係が崩れたのはそれからひと月足らずのことだった。
 テスト期間に入り、部活動も休みになって生徒たちは皆明日の試験に備えて足早に帰宅する。そんな日の夕方、事務に必要な書類をまとめたシーザーは不意に響いたノックに大きく肩を揺らした。事務員か教員の誰かか、と迎えに立つ前に鍵のかかっていない引き戸から見慣れた黒髪が飛び出して面食らう。ジョジョ、と愛称を口にすれば彼はやはり嬉しそうに笑った。

「まだ学校に残ってたのか。どこか転んで怪我でもしたか?」
「んーん、違う。今日はシーザーちゃんに教えてもらいたいことがあって」
「……? 試験対策なら、三階の職員室にまだ何人か先生が……」

 言いかけた言葉はジョセフの唇に飲み込まれた。歳下で同性の生徒にくちづけられ、シーザーの思考回路は一度にショートする。抵抗する機会すら失って立ち尽くす彼にジョセフは容赦なくキスを仕掛け、その舌が唇をなぞったところでシーザーは我に返った。
 とっさに突き飛ばすも彼よりも大きいジョセフの体はそれほど衝撃を受けた様子もなく、たたらを踏んで数歩下がるにとどまる。シーザーの手は反射的に唇をぬぐい、反対の手は強く拳を作った。
 彼が「なにしやがる、てめえ!」と叫んでも思いがけず冷たく「なにって、わかんねえの?」と問い返されて、射抜くようなジョセフの瞳の色に勢いが削がれる。その隙を見逃さずジョセフは彼の手首を掴み白い壁に押し付けた。いつも椅子に掛けるジョセフに治療を施していたシーザーは、見上げた角度で彼の背の高さを改めて思い知る。その唇が動くのをただ見つめていた。

「あんな風に熱っぽく見つめてさ、どういうつもり」
「あ、あんな……?」
「おれを見るシーザーの目。宝物を見るみたいに優しい色してる」

 言われてシーザーは自分の行動を振り返る。確かに、ジョセフに向ける視線は他の生徒に向けるものと微妙に異なっていることを自覚していた。それはやんちゃで喧嘩ばかりしている彼を荒れていた過去の自分に重ね合わせるからの懐古であり、同じ制服を着て同じようにひねた目をする彼へのシンパシーでもあった。
 いつかの自分を見るようでほほえましく、同時に苦さを含んだ思いが視線に乗ってあふれ出しジョセフに誤解を与えたのだろうか。違う、と言って体をよじっても彼の拘束からは逃れられなかった。

「ジョジョ、違うんだ、おれはそういうつもりじゃ」
「誘っておいてそんなつもりじゃないって? とんだビッチじゃねえの」
「違っ、あれはそんな意味じゃなくて」
「違わねえって。シーザーはおれが好きなんだ」
「だから、お前の勘違いだって……っの、離せ!」

 全力で抵抗してもジョセフの体はびくともしない。見下ろされることなどなかったシーザーにとって自分より大きな男の扱い方は未知数で、覆いかぶさられるように力を加えられては倒れ込まないのが精一杯だった。解放されたいと願うシーザーの思いとは裏腹に密着され、触れる布越しに高い体温を感じる。その耳元に唇を寄せ、睦言をささやくような甘さでジョセフは最後の一押しを口にした。

「……勘違いじゃねえ、だろ?」

 至近距離で吹きこまれたその声にぞくぞくと背筋がしびれた。初めて聞いたジョセフの低い声はシーザーの脳をとかしていく。ついでのように耳朶を舐め上げられ、露骨な水音にめまいを感じた。全身に広がるしびれを追いかけながら目を開いたシーザーの視界には底の知れないエバーグリーンの瞳が映る。
 その視線に見つめられるだけで足元から溶けていくような気がして、シーザーはかかとを浮かせる。9cmの身長差を埋めるキスは、彼が望まない限り得られないものだった。

 彼に抱く思いに名前を付けられないまま体を重ね、ジョセフとシーザーの関係はずるずると今に至る。二重三重に背徳的な行為を断ちきれずに続けているくらいだからジョセフに愛情を抱いているのは確かだが、それがはじめからシーザーのうちにあったものなのか、何度も抱きあううちに情が湧いただけなのかは彼にもわからない。そうなることを見越して無理矢理に持ち込んだのなら、ジョセフというのは食えない男だと思った。

「シーザーちゃん、なに考えてるの?」
「……っうぁ!」

 騎乗位で下から突き上げられてシーザーの悲鳴が上がった。彼の腰を掴む男は不満そうに唇を尖らせていて、歳相応な幼い仕草にジョセフという男をはかれなくなる。お前のことを考えてたんだ、と言ってしまえばまるで恋人のようでシーザーはその言葉を飲み込んだ。

「考えごとする余裕あるなら、もっと腰振れるよねェ〜?」
「んあっ! く、ひぅ、ああっ」

 がつがつと揺さぶられてシーザーの口からはかすれた声が漏れる。密室のなかとはいえ、職場でこんな行為に耽る罪悪感に唇を噛んで耐えようとしてももたらされる刺激の強さにそれも叶わなかった。すでにジョセフは二度達したはずだが若い熱はまだ張り詰めてシーザーをなぶる。中に出された精液と性器でぐちゃぐちゃにかき回され、がくがくと震えるシーザーの足はもう自分の体重も支えられそうになかった。

 不意に、人の話し声が聞こえた。はっとしたシーザーが耳をそばだててみれば、廊下と扉を隔てて聞こえる声はだいぶ遠いが同じ階に誰かいることは間違いなかった。
 保健室のあるフロアには資材室を除けば二年生の教室があるのみで、今日は校外実習のため全員いない。他の学年の生徒も、学校の3分の1が出払っている状態では部活も委員会もさっさと切り上げて解散しているに違いなかった。そろそろ日が落ちるという時間にこの階に用事があるというのなら間違いなく目的は保健室にあり、その事実に考えが至ったシーザーは腹の底が冷えるのを感じた。
 慌てて身を起こしてジョセフから離れようとするが彼がそんなことを許すはずもなく、反対に強く腰を掴まれて声もなく背がしなる。あふれる快感に耐えながらやっとの思いで口を開いた。

「ジョジョ、離せっ、人が来る」
「えー、そんな格好でどうするわけェ? いいから大人しくしてなって」
「ふざけ……っん、ぁ」

 小声の早口で告げた言葉はあっさりと切り捨てられ、代わりにいっそう深く熱を押し込まれる。話し声のかわりにリノリウムの床を近づく足音が聞こえシーザーの胸は恐怖に早鐘を打った。二人が体重を預けるベッドの周りには病院と同じくカーテンをめぐらせているが、布一枚隔てたところで誰かに開けられてしまえばおしまいだ。カーテンの中で見つからないように声を殺すしか考えられないシーザーは自分の手で口をきつく覆った。
 のんきな足音はあっという間に保健室の前にたどり着き、一瞬置いてからコンコンとノックが響く。声を出せないシーザーは来訪者が返事のないことに諦めて帰ってくれることを強く祈ったが、そんな願いもむなしくそろそろと引き戸が開かれる。建てつけのよくない扉が立てる音に肌が冷や汗で濡れるのを感じた。

「先生……あれ、いない?」

 響いた声は快活な男子生徒の声だった。沸騰しかけた頭でこの声は誰だったかと考えるシーザーは、直後口をふさいだまま驚愕に大きく目を開いた。仰向けで寝転がったままのジョセフがカーテンを動かし、顔だけを扉の方向に晒したのだ。布の切れ目から差し込む人工的な光にシーザーの体が震えるのがわかる。彼の動揺など気に留めた様子もなくジョセフは気軽な声を出した。

「よぉ、スモーキー。シーザーならいねえぜ」
「あれ、ジョジョはまたここで寝てるのかい。えーと、先生は在室中の表示になってたんだけど」

 ジョセフが呼んだ名前にシーザーは声の主を思い出す。スモーキーはジョセフと同じ三年生で、持病から月に二回程度の頻度でここを訪れる生徒だった。彼が言うのは扉の横にかかっている在室プレートのことで、保健室を訪れる生徒のために在室、外出中、会議中といった表示を使い分けている。そのプレートが在室を表していたのだろう、外出中の表示にしておけばよかったとシーザーが後悔をしてもいつもジョセフがなだれこんでくるのでそんな余裕はない。鍵すらかける時間もないのだから、プレートにまで気が回るはずもなかった。

「シーザーはさっきまでいたんだけどよ、置いてた薬を切らしたとかで出てっちまったぜ」
「そうなんだ、在室中の表示のままなんて珍しいね」

 ジョセフが口にしたでまかせにシーザーはとりあえず胸を撫で下ろす。カーテンの隙間から覗きこまれれば件の彼がジョセフの上であられもない姿をさらしているところが丸見えなわけで、露見する恐怖に震えたがシーザーが居ないとなればスモーキーはそのまま帰るに違いない。音もなく安堵の溜息をついたシーザーは、室内に踏み入る足音に鼓動が大きく跳ねるのを感じた。

「おととい来たときに時計を忘れちゃったみたいなんだ。先生には悪いけど、ちょっと探させてもらおう」

 言いながらスモーキーは歩を進め、シーザーが普段使うデスクの辺りを眺めているらしかった。照明が眩しい廊下とは違い、薄暗い室内ではカーテン越しのシルエットもわからないだろう。それでもすぐ近くに誰かがいるというその気配にシーザーの足がまた震え出す。無意識に締め付けたのか、ジョセフが意地の悪い顔のまま眉間を寄せたのがにじんだ視界にうつった。

 そのままわずかに腰を動かされてシーザーの喉が引きつる。唇をきつく噛みしめていなければ声が上がっていただろう。恐怖と快感でキャパシティを越えたシーザーの目には涙が膜を作っていたが今文句を言う事はできない。そのことを理解しているジョセフが彼の性器に手を伸ばし緩慢な手つきでなぶり始める。もう片方の手はシャツの下に這わされ、胸の尖りを引っ掻いた。熱を高めるような愛撫にシーザーの鼓動は速さを増す。背を駆けのぼる快感を殺す彼の目はかたくつぶられ、金色のまつげから透明な雫がすべり落ちた。

「えーと……あ、あった。それじゃジョジョ、先生が戻ってきたらよろしく」
「オーケー、じゃあな」

 すぐに目的の物を探しだしてスモーキーは慌ただしく部屋を出て行く。彼がベッドの横を通る瞬間にふわりとカーテンがなびき、布の切れ目から照らす光が一瞬シーザーの膝を舐める。振り向くこともせず後ろ手に引き戸を閉めたスモーキーにシーザーは今世紀最大級の感謝を捧げた。

「……シーザーちゃんって見られてると燃えるタイプ? すっごい、きゅんきゅん締め付けてくるんですけど」
「ばか……っ、お前、どういうつもりで」
「あのなぁ、誰もいなくてベッドのカーテンだけ閉まってたら誰だって気になるだろ。開けられる前にこっちから顔出せばそれ以上追及されねえよ」
「う……そ、それにしてもあんなときに触るなん、っぁ!」

 文句の途中でジョセフが身を起こしたので結合の角度が変わり、シーザーは思わず息を吐いた。まだスモーキーが近くにいるかもしれない、と咄嗟に口をおさえたが漏れた声はごまかしようがない。そんな彼にジョセフは笑って、「心配ねえって、階段下りてく足音したから」と対面座位の格好で抱き込みながら口にした。

「声聞かれるって思ったらきゅって締まったの、わかる?」
「あ……やっ、違……っ」
「違わないって。ほんと、やらしい体」

 揶揄するように言われてシーザーは力なく首を振るが、スモーキーの足音を聞いた瞬間から体が敏感になっているのは認めないわけにはいかなかった。彼の性器を握るジョセフの手は先ほどとは比べ物にならないほどの激しさでシーザーを追い詰め、前と後ろから快感を味わって意識は熱にほどけていく。シーザーはジョセフの肩口に額を預けながら甘い声で喘ぐしかできなかった。

「誰かに見られるかもって思うと余計に感じちゃうんだ、かーわいい」
「や……ジョジョ、も……ひっ」
「今度はそうしよっか。つながってるとこ、みんなに見せつけてさ」
「ああぁっ、やだ、やだぁ……っ」

 言いながらジョセフは彼を受け入れているところをぐるりとなぞった。その感触すら快感に変換してしまいシーザーの腹筋が痙攣する。感度よく反応を返す彼にジョセフはにやりと口角を上げ、鈴口をもてあそびながら粘性の音にまぎれてささやいた。

「みんなの前で犯されて、大勢の生徒に見られながらイかされてさ。本当にやってみるぅ?」
「やっ、も、やめ……ぁんっ!」
「中うねうねしてるんだけど、想像して感じちゃった? センセ、やーらし」
「違っ……あひっ、ふあ、やあぁっ!」

 こんなときばかり先生と呼ぶジョセフにどろどろに溶けた箇所を何度も穿たれ、シーザーの口からはとろけた声しか出ない。
 彼に言われたように、衆人環視の中見せつけるように犯される自分を想像してどうしようもない興奮を覚えたのは事実だった。すっかり開発された前立腺をえぐられ、絶頂の予感に背を震わせる。もう一度深く突き立てられて、シーザーはあっけなく達した。

「ひ、ぁあ……!」

 ドライオーガズムを迎えてのけぞる彼の晒された首に噛み付き、ジョセフは「イくときはちゃんと言わなきゃだめだって言ったろ?」と笑う。痙攣が収まらないシーザーを気遣うこともせず、とろとろと涙をこぼす性器を乱暴にしごいた。許容量を超える快感に、シーザーが上げた声はほとんど悲鳴に近かった。

「っああ! イってる、ァひ、イってるからぁ……!」
「なに、泣いてんの? 勝手にイったお仕置きだって」
「ひぅっ……またイく、イっちゃ……!」

 容赦なく責め立てられてシーザーはもう一度絶頂を迎える。彼の精液が腹を濡らすのを感じながらジョセフもシーザーの中に熱を吐き出した。
 チカチカする視界に「よかったぜ、シーザーちゃん。今度は外でしてみよっか」と笑う男を捉え、シーザーの意識はそこで白く途切れた。