ジーン・ソーダ

「あー、シーザーちゃんが女の子だったらいいのになァー」
「……てめえ、おれを怒らせたいのか」
「だってそうだろォー? こんなとこに閉じ込められて、かわいい女の子でもいなきゃやる気出ねえぜ」

 イギリス人であるリサリサはティータイムを重んじる。いつもは修行のために彼女のお茶会には参加できないジョセフとシーザーだったが、今日は途中で目を回したジョセフを介抱するために館に入り、ちょうどアフタヌーンティーの時間だったために同席できることになった。ジョセフは偶然もたらされたご褒美に満面の笑みを浮かべたが、シーザーからすれば修行の途中で倒れたのだって彼の策略ではないかと疑ってしまう。ジョセフはそれくらいやりかねない男だった。

 そんな優雅なお茶会で、師を前にしながらばかげたことを言う彼にシーザーの眉が寄る。あくまでふざけた態度のジョセフにため息をつき、「かわいい女の子ならスージーQがいるだろう」と言えば「あいつの顔あんまり見ねえんだもん。シーザーといる時間のほうがずっと長いしなあ」ともっともな言葉が返った。

「なあ、シーザーが女の子だったら面白いと思わねえ?」
「……そんなくだらないことを先生に聞くんじゃねえ」

 テーブルに身を乗り出したジョセフは、正面で優雅にティーカップを傾けるリサリサに子どものように質問した。シーザーは呆れたように言うだけだったが、師は真面目な表情を崩さないまま「いい考えですね」と返す。思わず固まるシーザーを意に介さず、「あなた方のどちらかが女性だったなら、ぜひ結婚してほしいと思います」と続けた。

「……聞いているでしょうが、波紋の素質は遺伝します。両親が強力な波紋使いならば、その子どももまた波紋戦士として成長できるはず。ジョジョかシーザーが女性ならば、二人の間にぜひ子どもをもうけてほしいものね」

 弟子たちのぽかんとした視線を受けながらリサリサは冷静に言い切る。それから時計を見やり、「あくまで仮定の話です。時間だわ、修行に戻りなさい」といつも通りのきびきびした声で指示した。
 彼女の視線に押されてシーザーは立ち上がり、「まだ紅茶が残ってるんですけどォ〜!?」とごねるジョセフを連れて部屋を出る。二人の間に子どもがほしい、ありえない仮定の話とはいえ敬愛する師の声がシーザーの耳に残って離れなかった。


 だからだ、とシーザーは考える。あんな話を聞いたから、またあの夢を見るのだと。

 まばたきから目を開いた瞬間、シーザーの体は女になっていた。天蓋付きの貴族趣味なベッドはこの館唯一の客間に設えられたものだ。やわらかなスプリングを背中に感じながら見上げれば、ジョセフの巨体が照明を遮るようにして彼、いや彼女に覆いかぶさっている。確かめるように自分の体に手を這わせたシーザーは確かに存在する胸のふくらみにため息をついた。服の上から触れば下着の感触はなく、やわらかな体温を感じる。ジョセフが口にしていたようにかなりサイズは大きい、性別が変わって小さくなった彼女の手のひらでは持て余すほどだった。
 いまだ鏡で自分の姿を確認したことはないが、女性となったシーザーはかなりスタイルのいい美人に違いない。だから、彼女を組み敷くジョセフの目が少しばかりぎらついたものになっていてもそれは仕方ないことなのだろう。圧しかかる彼の存在をつとめて無視していたシーザーはついに諦めて口を開く。その唇から出たのは、やはり女性の高い声だった。

「なにしてんだ、スカタン。どけ」
「へえ、ベッドの上じゃシーザーちゃんのお気に召さない? 立ったままとか好きなわけ、やーらしー」
「……何の話だ。いいからどけって、っの」

 焦れたシーザーが仰向けのまま力をこめても彼女の白い腕ではジョセフを動かすことはできない。悔しそうに口元を歪めるシーザーに彼は不思議そうな表情を浮かべて上体を起こした。ジョセフが常に身に着けているはずの呼吸矯正マスクは影もなく、そのことに少しばかり不安が募る。感じる圧迫感が去って息をつくシーザーに彼は「なにって、エッチの話だろ」と当然のように言った。

「……はあ!? てめえ、なに……」
「シーザーちゃん聞いてなかったのォ、リサリサが言ってたろ」
「……先生が、なんて」
「二人でしっかり子作りしろ、って」

 聞き返したものの彼の言葉は半ば以上予測できていたもので、ジョセフの返事を聞いたシーザーは身を翻してベッドから抜けだした。昨日見た夢ではほだされるように抱き合ってしまったが、今の体で誰かに触れられることには不快感しかない。その相手がよく知ったジョセフであっても、いやジョセフだからこそ体を暴かれる恐怖が大きかった。
 彼が本気を出せばすぐに捕まってしまうだろうに、なぜかジョセフは逃げ出したシーザーを追いかけてはこない。部屋の出口まで駆けた彼女は重厚な扉に取り付き力いっぱいノブを回す。何度試してもそこはガチャガチャと音を立てるばかりで扉が開くことはなかった。

「なんでだ、クソ、開けよ……っ」
「だーから話聞いてなかったろ、おめー」

 閉じたままの扉の前で悪戦苦闘するシーザーの背中にぺたりとジョセフが貼り付く。彼はこの扉が開かないことを知っているからこそ、慌てて追いかけてはこなかったのだろう。反射的に見上げれば頭のはるか上から見下ろされて、動物的な恐怖に身がすくんだ。
 そんな彼女の内心など知らず、シーザーの肩に顎を乗せた彼がこともなげに言う。体を伝わるジョセフの声に鼓動が速くなるのを感じた。

「昼間、リサリサがおれらの子どもがほしいって言ってたのは覚えてるよな?」
「……それは、聞いた」

 だがそれは自分が女性だったら、というありえない仮定での話だったはずだ、と言いかけてシーザーはふと口をつぐむ。そのありえない仮定が、この夢の中では起こっているのだ。

「で、今日はリサリサがいいって言うまでこの部屋から出られないってよ。ゆっくり子作りしろってな」
「……じゃあ、この扉は……!」
「そ。リサリサの波紋でがっちり固定されてるから開かないぜ」

 さらりと言われてシーザーはくらくらとめまいを感じる。彼の言う通り、扉には鍵がかかっておらず、それ以外の要因で封鎖されているようだった。徒労を知ったシーザーはだらりと両腕を垂らす。無防備な腹にジョセフの両腕が巻き付いて思わず声が出た。

「ひっ! ……てめ、なにして」
「リサリサの言ったことも忘れてるシーザーちゃんに、思い出させてあげよっか」
「……何を」
「昨日のエッチ。気持ちよかったろ?」
「ふざけんなっ!」

 肘鉄を彼の腕に叩きこむがこたえた様子もない。それどころかその手がするりと持ち上がり、彼女の乳房を下からぐにぐにと揉んだ。布越しに頂点をいじられてシーザーの呼吸が乱れる。
 普段通りの服を着ている今ならシャボンランチャーで応戦できる、と考えてみてもすでに彼女の弱点を知っているジョセフの指先に翻弄され、呼吸を整えて波紋を練るなどできそうにない。浅くなる呼吸から逃げるように口を開くと、図ったように彼の指が胸の尖りを強くつまんだ。

「っぁん!」
「もうビンビンじゃん。シーザーちゃん、こうされるの好きだもんね〜」

 服の上からでもはっきりわかるほどに立ち上がったそこを撫でてジョセフは笑う。彼に背を向けたままのシーザーの顔はかっと熱くなるが、揶揄された通り、彼女の体は快感を集めて過敏になっていた。ジョセフの腕を引き剥がすために力を込めていたはずの両手は、今はただ添えられるだけですっかり力が抜けている。裾をまくりあげたジョセフの手が服の中に侵入してきても、立てた爪は彼の腕をゆるく引っかくだけだった。

「なーに、期待してんの?」
「や、違……」
「じゃ、シーザーは服の上からいじられただけでこんなになっちゃうんだ」
「……調子、のんな……ばか」

 扉と彼の間に押し込められて、息苦しさから知らず顔が上を向いた。後ろから回されたジョセフの腕が視界の外に消え、見えないままにもたらされる刺激はさらに快感を大きくさせる。直に性感帯を愛撫され、腰が重くなる感覚に身悶えるシーザーは手の甲で自分の唇を覆った。

「……なァんか、押し付けられてるんですけどォ〜」
「……っ! これは……その、勝手に……」
「勝手に腰が揺れちゃうんだ? おめーほんと淫乱だよなぁ」

 ジョセフの揶揄に唇を噛むが、腰を突きだして刺激をせびるような格好になっているのは事実だった。背を反らせ、胸元を彼の手に、腰を彼の足に押し付けるあからさまな体勢に羞恥が灯る。それでもジョセフに愛撫されるたび腰が砕け、ますます彼に体を預けるように沈んでいった。
 胸をいじられたまま首筋を舐め上げられて、悲鳴とともにシーザーの背がしなる。その瞬間に強く押し付けた太ももに固い感触が残って目を開いた。男であったシーザーには覚えのある熱だったし、女だろうとこの歳になれば誰だってその意味くらい知っている。背中で笑った気配がして、今度はジョセフから露骨に押し付けてきた。

「なぁシーザーちゃん、おれの当たってるのわかるゥ?」
「ぅ、あ、や……」
「逃げんなって。今からこれで孕ませられちゃうんだぜ〜?」
「……っの、離せ!」

 からかうようなジョセフの言葉から逃げ出そうと身を捩るが、こんな場所と体勢では叶うはずもない。もがく彼女を上からなんなく押さえ込んだジョセフは「そんなこと言って、ほんとは欲しいんだろ?」と耳に残る低音でささやく。認めたくないシーザーは暴れたが、耳朶を甘噛みしながら言うジョセフの声に負けた。

「欲しい、んだろ?」
「……――〜ッ」

 何も言えなくなってしまった彼女に肯定を読み取って、上機嫌のジョセフは嬉しそうに首筋にキスを落とす。音を立てながら吸い付き、肌を這う舌の感触にシーザーは熱が煽られるのを感じた。胸の先を引っかいていたジョセフの手が不意に止まり、「脱がせてほしい? 自分で脱ぐ?」と最低な二択を突きつけてきた。

「はぁっ、てめ……」
「脱がせてほしいのォ〜? シーザーちゃんかーわいー」
「っ自分でやる!」

 言って彼の手が不穏に下がっていくのに慌てて叫ぶ。それこそが彼の狙いだったのだろうが、思い通りに動かされていることにシーザーは歯噛みした。
 自分で、と言えばジョセフは手を出す気はないらしく、白い肌に手をすべらせながら彼女が動くのを待っている。すでに火がついてしまった体を鎮める方法が他に思いつかなくて、期待されるとおりにシーザーは下肢に手を伸ばした。
 ベルトとボトムは男であった記憶にある通りのものだったが、その下から現れる下着の感触はどう考えても女性のそれだ。変なところでご都合な夢だ、とぼんやり考えるが夢とは本来そういうものなのだろう。それよりも、深層心理の発現とも言われる夢で弟弟子に抱かれることの方がよっぽど問題だ、と至った結論に表情が曇る。
 そんなシーザーの顔が見えていたわけではないだろうに、催促するように後ろから腰が押し付けられて呼気が漏れた。ボトムを下ろした分彼の熱を近くに感じる。布で隔てられているはずなのに、その感触を妙にリアルに感じてシーザーの頬が熱くなった。

「早く脱げよ。それとも、パンツはおれに下ろしてもらいたいわけェ?」
「黙ってろ、スカタン……!」

 言ったものの、彼なら脱がせることに何の抵抗もないだろうと考えてシーザーは頼りない下着に急いで手をかける。ジョセフに脱がされるくらいなら自分で済ませてしまったほうがよほどましだ。
 一瞬息を詰めてから彼女はゆっくりと最後の布を下ろす。あからさまにねだるような行為に頭がしびれるほどの羞恥を覚えた。
 恥ずかしさに耐えながら下肢をさらけ出したシーザーにジョセフは「よくできました」と笑いを隠さない声で首を舐め、自身も手早く前だけくつろげる。むきだしになった秘所に彼の熱が直に当てられてシーザーは思わず腰を引いた。「逃げんなよ」と片手で腰をつかまれ、もう身動きも取れない。性器がこすれてかすかな水音が立ち、このまま消え入りたいと思った。

「……な、聞こえる? ここから、音してんの」
「う、やぁっ……」
「胸だけでこんなびしょびしょになっちゃうんだ? やらしい体」

 露出した性器同士が合わさり、ジョセフが腰を揺らすたびに粘液が絡んで音が生まれる。自身がどうしようもないほど濡らしている証拠をつきつけられて羞恥に涙がにじんだ。自然と視線が落ち、背が丸まる。敏感になったそこに強い刺激が与えられて彼女の淡い瞳が見開かれた。

「ひぅ、ぁっ!」
「あー、シーザーちゃんの素股きもちい」

 後ろから彼女を抱きかかえるジョセフが、性器を密着させたまま前後に腰を使う。太ももと秘所の間に生まれた隙間を彼の熱が犯し、熱が肌を舐める感覚にシーザーは喘いだ。直接に性感帯を責められるのではない、けれど確かに感じる刺激に浅い息を繰り返す。その間にも聞こえる水音が彼女の理性を剥がしていく気がした。

「……ちょっとォ、ちゃんと足閉じててくんない」
「んぁ、や、できな……」
「なに、シーザーちゃんは後ろからこすられるだけで腰が砕けちゃう淫乱なわけ」
「やだ、違……っんぅ」
「そんなこと言って、どんどん足開いてるぜ?」

 彼の言う通り、シーザーの腰はすっかりくだけてしまいジョセフの腕に寄りかかっている状態だった。こすられるたびに膝が震え、足が勝手に開いていく。はしたない格好になっていくのを自覚しながら彼女の体はもう自制が効かなかった。
 不意に切っ先が浅く埋まってシーザーは背をしならせる。彼は入り口をわずかに犯しただけで、与えられた熱は一瞬に去って追いかけるように腰が動いた。
 咄嗟の反応にしまった、と思ってもあとの祭りで、刺激に浮いた腰をそろりとなで下ろされる。「腰動いちゃってるけど、欲しいの?」とはっきりと笑み混じりに言われて唇を噛んだ。戯れのように軽く触れさせ、わざと離れるジョセフの動きにちゅぷ、ちゅぷと水音が立つ。じれったい刺激に、その先が欲しいと強く思ってしまった。

「欲しいならちゃーんとおねだりしなきゃ、な?」
「ぅ……だ、誰がそんな……ッ」
「ふーん、じゃあやめる?」
「っぁ、やだっ」

 ジョセフは言いながら腰を引き、足の間の熱が取り上げられる感覚にシーザーは反射的に声を上げた。リサリサが二人を封じ込めているのだから、やめると言った彼の言葉は意味のないハッタリにすぎない。そんなことも忘れ、本心を口にした彼女に忍び笑いを漏らしたジョセフはなめらかなわき腹をなぞる。間接的な刺激にも息を詰めるシーザーは、自分が今どれほど飢えているか見せつけられた気がした。

「やめてほしくないんだろ。自分で開いて、おねだりしてみな」
「そ……んなの、……ぅ」
「上手にできたらぶち込んでやるよ。ほら、早く」
「……あ、ぅ」

 逃げたがるシーザーの顎を後ろから掴み、体を密着させたままでジョセフは言う。体の内にくすぶる熱を発散する方法はただひとつしかないことはもうわかっていて、シーザーはごくりとつばを飲んだ。どうせ、リサリサの許しを得るまでここから出ることは出来ないのだ。彼女を縛る密室が今やこの行為への言い訳になっていることにも気づかず、シーザーは片手をそろりと下に伸ばす。自らの指でかき分けた肉弁は驚くほど熱く濡れていた。

「……も、早く挿れて……犯して、くれ……!」
「……ンー、30点。今日は特別サービス、だなっ!」
「ひ、んぁああ!」

 言葉と同時に貫かれてシーザーの体はガクガクと揺れる。すがるものを求めて伸ばした腕は扉に落ち、その表面を掻いた。待ち望んでいた刺激に彼女の内側はうねり、ジョセフの性器に甘く絡みつくのがわかる。両手で腰を強く引き寄せられ最奥まで彼で満たされるのを感じた。

「……は、一番奥まで入っちゃったな」
「んぁ……は、ひぅ」
「動く、ぜ」
「やぁっ、待……!」

 彼女の悲鳴にも構わず激しく抜き差しされてシーザーは涙をこぼす。後ろから穿たれ、昨日夢で知ったばかりの快感とも違う感覚に翻弄されるばかりだった。うまく呼吸することも叶わず、開いた唇からはとろけた声ばかりが漏れる。彼女の中をかき回しながら耳元でジョセフがささやいた。

「そーんなアンアン鳴いちゃって、誰かに聞かれても知らないぜ?」
「ひ、ぁ……!?」
「扉は波紋で固定されてるけど、隙間まで塞いでるわけじゃねえからな」

 言われて初めて思い至り、シーザーの頭がさっと冷える。この部屋の重厚な造りは大抵の物音を閉じ込めるだろうが、扉のすぐ近くで生まれた声まで殺してくれるとは思えない。咄嗟に口を覆ったシーザーは体の支えを失い、不安定に上体が揺れる。深くなった結合にうめいた声は手のひらの中で消えた。

「っ、く……今、きゅんってしたけど、聞かれると思って興奮したァ?」
「……!」

 体を折ったジョセフに耳元で囁かれてシーザーの顔は熱くなる。彼が見抜くとおり、屋敷の住人に聞かれるかもしれないと思うとどうしようもなく高ぶる自分を知った。どくどくと跳ねる鼓動が耳元で聞こえ、内壁が一層彼に絡みつくのがわかる。そんな体を知られたくなくていやいやとかぶりを振るシーザーに彼は笑っていた。

「いいじゃん、聞かれたって。みーんな、おれたちの子どもを見たがってるんだぜ」

 言われてシーザーは思わず振り返った。腰を押さえつけられている状態で体をひねっても限界があり、彼の顔を正面から見ることはできなかったが、横目にうかがうジョセフはふざけているようには見えない。みんな、とはどういうことだ、と問いかけたくても彼女自身の手のひらが言葉を遮っていた。

「ここでおれとシーザーがエッチしてるのはみんな知ってるぜ? だから今日の修行は早く終わったんだし、ここの掃除したのはスージーQなんだから」

 彼女の疑問を読み取ったのか、なんでもないように答えるジョセフにめまいがした。異常だ、こんなのおかしい。周りから圧力をかけられて行為に及ぶなど、血を残すための道具としてしか扱われていない気がして、愛情を重んじるシーザーには理解しがたい。けれど一番おかしいのはどういう理由であれジョセフと肌を重ねられることに喜んでいる自分で、シーザーの頭は混乱していくばかりだった。

 だから声聞かせろって、と伸びてきた彼の腕に口を覆っていたシーザーの手は剥がされ、そのまま後ろに引っ張られてまとめられる。両腕を後ろに引かれ、腰を突き出した露骨な格好に羞恥がわき上がる間もなく穿たれて悲鳴が上がった。手で塞ぐことはできなくとも、と必死に声を殺そうとするシーザーだが、「シーザーの声、イイ、興奮する」とかすれた声で言われてはそんな決意もどこかに崩れ去る。ジョセフが望むまま甘い声を上げる彼女の理性はほとんど溶け出していた。

「あー、すげ、締まる……シーザー、やっぱこういうの好きなんじゃん」
「やぁ、そんな……ふ、あぅっ!」
「中うねうねしてんのわかる? おれのザーメン欲しくて仕方ないんだろ」
「うぁ、ジョジョ……あんっ!」

 揶揄する言葉とともに後ろから胸の尖りをなぶられる。つまんだまま引っ張られて甘い痛みにシーザーは身体をよじった。うなじに歯を立てられ、そんな感触ですらジョセフが刻むものだと思うと快感と幸福感が彼女の胸中に生まれる。二度抱き合っただけでこれほどまでに骨抜きにされている自分に恐怖に似た思いを抱いた。
 乳房を弄んでいたジョセフの右手がするりと落ち、彼女のへそをなぞって下へ伸ばされる。反射的に抵抗しようとしたシーザーの両腕は体の後ろで拘束されたままで、わずかに体をゆすっただけに終わり、結合部に彼の手が触れて一瞬息が詰まった。腰の律動は止まらないままで、いっぱいに広がって彼を受け入れるところをぐるりとなぞられてシーザーの悲鳴が上がる。手探りのように触れたジョセフの手が一点に気づいて動きを止めた。

「……こっちもビンビンじゃねえの」

 ひとりごとのような音量の言葉に悪い予感がめぐったシーザーは彼の腕から抜けだそうともがくが、そんなことを許すジョセフではない。反対に上から体重をかけられてわずかな身じろぎもできなくなってしまう。彼女の抵抗を封じたジョセフはおののく体を押さえこみ、指先で一番敏感な部分に触れた。

「ほら、イけっ!」
「ひっ……んあぁあああっ!」

 立ち上がった陰核をしごかれてシーザーはあっけなく達した。内壁が収縮し、飲み込んだままのジョセフをぎゅうと締めつける。開きっぱなしの唇から唾液が伝ったが、そんなものを気にしている余裕はなかった。
 内ももを震わせるシーザーの耳に唇を寄せ、ジョセフは「今イったの、シーザーちゃん」と甘くささやく。違う、と漏れた言葉は意図したものというよりは習い性のようなものだった。

「や、違っ……んぁ、イってな、い……っふ、ン」
「へえ、すっごく締まったんだけど」
「やぁっ、違……ちが、う、ふぁっ!」
「イってないんだ?」
「ひぅ、あ……イ、イってな……」
「ふうん、じゃあ」

 シーザーちゃんがちゃーんとイけるまで、気持ちよくしなきゃね? と言ったジョセフはきっと笑っていたのだろう。強情に認めないシーザーの言葉を捉え、もう彼女には反論できない。シーザーの腕を拘束していた手を離し、両手で目の前の白い腰を掴む。容赦ない動きで揺さぶられて高い悲鳴が散った。

「ふぁ、ひっ!? やぁ、ジョジョ、激し……っぅ、あん!」

 ほとんど泣き声のようにすがるシーザーに構わず、ジョセフはがつがつと腰を打ちつける。皮膚のぶつかる乾いた音と粘液がかき回される濡れた音が鼓膜に響いた。達したばかりで敏感になっているシーザーの体は与えられる刺激を受け止めきれず、過ぎた快感にただ涙があふれる。逃げ出したいと強く願っても彼女の腰はがっちりと掴まれていて、閉ざされたままの扉に爪を立てるしかできなかった。

「あ……ひぃ、んぁっ! やら、も……っひ、ぁあっ」
「えー、シーザーちゃんまだイってないんでしょ?」
「ひん、ぁ、イってるっ……も、イったからぁっ! おかしくな、や、うぁっ!」
「ンー聞こえねえなあ」

 笑みを含んで言ったジョセフは彼女を責める動きを止めようとはしない。逃げることも許されず深く穿たれて、嬌声とともに理性がシーザーからこぼれていった。おかしくなる、と本気で思う。ぐちゃぐちゃの体に快感だけが叩きこまれ、彼のことしか考えられなくなるような錯覚に陥った。

「シーザーちゃん、おれ、そろそろ限界……」
「っふぁ、や……またイっちゃ、ひぅっ」

 ジョセフが呟いたその言葉にすら快感が増すような気がした。絶頂の予感に体が勝手に震える。ぐり、と一番奥に彼の先端が当たる感覚が最後のトリガーだった。

「っ、ふ……中に出す、ぜ!」
「あ、んぁ……ひあぁぁああっ!」

 体内に熱く噴き出す奔流を感じながらシーザーの意識は白く溶ける。長い射精を終えて栓がずるりと抜け出すのを感じながら、これで目が覚めれば元の世界だ、とぼんやり考えて彼女の意識は闇に沈んでいった。