※現代パラレル
手にした本の内容がちっとも頭に入ってこない。どうして主人公は許嫁を捨ててまでならず者と手を組むことを決めたのだろうか。同じ文章を何度も目でなぞったあと、前のページに戻ろうとして手を止める。どうせ、読み返したところで今の状態では没入して楽しむことはできないだろう。
ベッドの中でヘッドボードにもたれかかるおれはちらりと部屋の入口に目を向けた。一人きりの寝室は当然ながら静かなもので、遠くからシャワーの音がかすかに響く。さっきから続いていたその音がやんだことに気づいてこの胸は一層波打った。
おれとジョジョが恋人と呼べる関係になってから3年が経った。おれが20歳のときに出会った彼はその年のうちに自分の会社を立ち上げ、みるみるうちに発展させて今や不動産業界で一番の注目株と言われている。リサリサ先生の紹介でインテリアデザイナー事務所で働くおれの耳にも噂が飛び込んでくるくらいだ。
そんな気鋭の社長であるから、当然ながらその日々は多忙を極める。商談だ視察だとあちこちを飛び回る彼は実に輝いていて、おれの自慢の恋人だった。とはいえデートの時間も捻出できないほど疲れきったようすのジョジョは見ていて忍びなく、同居を持ちかけたのは交際して半年が経つころだと記憶している。以来一度の引っ越しを挟みながらおれたち二人は起居をともにしていた。あのとき、「ダブルベッドを置ける部屋がないから」と引っ越したがったジョジョが一方的に物件まで決めていたことに喧嘩になったのも覚えている。
社長が第一線で指揮を執るのは起業以来変わっていないようで、ジョジョの忙しさも同様だ。新支店立ち上げのための3週間に及ぶ出張は今週の火曜で終わり、その日は遅くに帰ってくるなり着替えもせずに眠り続けていた。おれが途中で服をゆるめたのにも気づかず、起きしなに「おれが寝てる間に何が……!?」と慌てていたから笑ってしまう。
金曜になった今日も遅くまで会社に残っていたジョジョは今、浴室の中だ。続いていたシャワーの音が途絶えたということはそろそろこの部屋に顔を見せるだろう。食事もアルコールもすでにとった彼が求めているのは睡眠と、このおれに違いないからだ。
果たして、上機嫌な鼻歌がだんだん近づいてくる。寝室のドアが開けられたとき、おれはまるで無関心な表情を装って手元の本に視線を落としていた。
「あれ、シーザーまだ起きてたの」
「ああ、まだ途中だからな」
返した言葉はまったくの嘘だ。この本が読みかけであることは間違いないが、今日中に読みきるつもりはない。どころか彼がシャワールームに消えたときと同じページを開いているのだからただのポーズでしかなかった。
バスローブをまとっただけのジョジョはいつもより少し顔色が悪いものの、その表情は晴れやかなものだった。大きな仕事を終えたという解放感が気分を上向かせていることが伝わってくる。夕食の席でもいつもよりグラスを重ねていたのを見たくらいだ。酒精が残っているのか、どこかにぶい動きでパジャマに着替える彼を視界のすみで追いかける。スタンドライトの光を受けるジョジョの黒髪がたまらなくセクシーだった。
寝る用意を整えた彼はダブルサイズのベッドに入る。がっちりした造りを気に入って選んだというこのベッドは2年以上に渡る酷使にも耐えてくれていた。湯上がりのジョジョがまとうあたたかい空気とせっけんの匂いに鼓動が跳ね上がるのを悟られないよう、あくまで本を読んでいるふりを続ける。大きな体が甘えるように抱きついてきても手にした小説は離さなかった。
「出張、長かったァ〜。シーザーに会えなくてつらかったぜ」
「腑抜けたことぬかすなよ、社長さん。だいたい、同じようなことを火曜も聞いたぞ」
「そうだけど、今日は久々にゆっくりできるっていうかさァ。シーザーも明日は予定ないだろ?」
「まあな」
もちろんそうだ。明日は何の予定もない土曜、いくら夜更かししても問題ない。言われるまでもなく意識しているということを隠すため、返した言葉は必要以上にそっけなかったかもしれなかった。
さて、彼に求められたらどう答えよう。ジョジョを待ちわびていることを隠すためにわざわざ本を開いているのだから、すぐに飛びついては意味がない。かといって渋るポーズを取り続けていれば本当に乗り気でないと思われてしまう。彼が不在でも寂しくなかったとアピールしつつ、久しぶりのチャンスを逃さないよう慎重に行動しなければならないのだ。読んでもいないページをめくりつつ、すぐ横のジョジョの気配に神経を研ぎすませた。
「……そんじゃ、先に寝るわ。おやすみィ〜」
「……………………ぁ?」
布団の中に鼻先まで埋めたジョジョはそう言って目を閉じてしまう。予想していなかったために反応が遅れたおれが慌てて向き直ってもそのまぶたが動くことはなかった。すぐに深くなる寝息に拳を振り上げることもできず、握りしめた指の間でページがシワを作る。おれは喉もとまでこみ上げた言葉を飲み下すしかできなかった。
なぜここで寝てしまえるのか。3週間ぶりに顔を合わせたあとの休日だ、恋人なら当然期待するだろう。それをあっさり裏切ったジョジョに身勝手な怒りがこみ上げた。
むろん、彼が疲れていることはわかっている。だからこそ今日は、と思っていた。ジョジョの出張が3週間、彼はその前から準備に奔走していたから気づけばひと月以上セックスしていない。そのことに不満を抱いているわけではないのだ。ジョジョにしかできないことをやりぬくのは素晴らしい。そのうえで、大仕事を終えた彼に求められたいと思ってしまうのは身勝手なのだろうか。絞った照明の中でジョジョのまぶたはぴったり閉じていた。
今さら彼を起こすなんてできない。わがままなおれでもそこまで横暴にはなれなかった。かといってこのまま自分も寝てしまう気も起きない。本を読んでいるふりで駆け引きなどせず、素直に求めていればジョジョも応えてくれたかもしれないと思うと浅はかな行動に後悔がつのった。
せめてこのくらいは許されるだろうと勝手に決め、眠る彼の唇をそっと奪う。当然ながら反応の返らないくちづけは3年近く前、片思いをしていたとき以来だ。あのときは酔いつぶれて寝てしまったジョジョにこっそり近づき、この瞬間にも目を開けやしないかとおびえながら唇を重ねた。当時も今もキスくらいでは目を覚まさない眠り姫に苦笑して体を離す。満たされなかった体を抱えながら、おれも眠ってしまおうと決めた。
明かりを消し、全身をベッドに預ければ必然的にジョジョとの距離がさらに縮まる。湯上がりの彼はあたたかなせっけんの匂いを漂わせ、おれの中でじわりと熱が上がった。疲れているはずのジョジョの眠りを妨げるのはよくないと自分に言い聞かせながらもただれた欲望が全身を駆ける。彼を起こしてしまうのは忍びないとしても、眠れないおれが横で何をしていても構わないはずだ。何度も重ねたジョジョとの夜を思い出してうずき始めた体に手を伸ばす。暗闇の中で自分の息遣いがやけに耳に残った。
下着の中に手を差し入れれば、熱を帯びたそこは自分の体温でも喜んで反応する。性器を握って数回しごくように刺激するとたちまち張りつめた。背徳感からジョジョに背を向け、自然と体が丸まる。恋人が同じベッドで寝ているというのに、自分を慰めるところを見られたら羞恥で死んでしまいそうだ。今すぐやめて寝てしまうのが一番いいとわかっていながら、身勝手な期待に熱くなった体は引き返せそうにない。彼の指先に焦がれながら暗闇できつく目を閉じた。
性感帯に触れれば快感が生まれるのは当然だ。何度も手を動かし、ふくらんでいく興奮を逃がすように息を吐き出す。今日こそジョジョに触れてもらえると思っていたのに。このひと月の間、おれがどれだけ彼の体温を待ちわびていたか。
会えない間にむなしく繰り返した自慰を今日も味わう羽目になるとは思いもしなかった。多忙なジョジョを責めるのは筋違いだとわかっていながら、心のどこかではわがままな寂しさが根を張っていた。その切なさをごまかすように性感にひたる。単調な刺激でも熱は高まり、わずかに聞こえる粘ついた音が興奮を煽る。隣のジョジョに聞かれないよう唇を噛んで声を殺した。
触れていなくとも彼とのセックスは鮮やかに思い出せる。それくらい何度も体を重ねているのだ。記憶の中の指先を重ねて自分の手を動かす。二人並んだベッドで、一人だけ呼吸をはずませているのが滑稽だった。
達する瞬間、わずかに声が漏れる。手のひらに吐き出した精液の感触が気持ち悪い。脱力感に身を任せ、荒れた息が落ち着くまでそのまま身を丸めていた。ふいにジョジョの腕がおれの背に触れ、飛び上がりそうになるのをなんとか押さえこむ。背中越しに必死に気配を探っても彼はそれ以上身じろぎせず、再び眠りの海に落ちたようだった。
気づかれたと思い、寿命が縮む思いを味わった。静かに息を吐いたおれは背中に冷や汗が伝うのを感じる。それ以上リアクションがないということは大丈夫だ、ばれていない。あいつのことだから、もし気づいていれば絶対にからかうかゆすってくる。そうでないことに安心したおれは体に残る熱にため息を漏らした。
すでに抱かれ慣れたこの体はおれの後ろで眠る最愛の恋人に貫かれたがっている。精を吐き出したというのにどこかに漂う空虚感を持て余して眉を寄せた。シャワーを浴びたときに後ろを慣らしておいたから、そのときからおれの空洞を埋めてくれる熱を欲しがっていたのだ。それがあっさりとおあずけされ、期待だけが取り残された後孔がひくついている。わずかな接触でもジョジョの体温を意識してしまえば飢餓感はより一層募った。
抱かれたくて準備したのに、欲しいものは与えられずに自分を慰めてもまだ足りないなんて我ながら浅ましい体だ。許したのはおれだが、それを望んだのはジョジョだった。おればかりが振り回されているようで悔しいと思っても、少なくとも今日はどうにもできない。おれの劣情が受け止められるのは明日の晩だ。切なさを訴える体を無視し、汚れた手を洗うべくこっそりとベッドを抜け出した。
おれの予想は裏切られることになる。土曜である翌日、いつもと同じ顔をして起きてきたジョジョは用意した朝食を上機嫌で食べた。一度生活リズムを崩すと元に戻すのに時間がかかるおれと違い、彼は休日に寝だめするタイプだ。そのわりに寝起きでもしっかりしているのが不思議だが、今日もゆっくり休んだジョジョに合わせておれもブランチを取る。昨日の満たされない思いを引きずっているおれは、ジョジョに予定を問われてから慌ててコーヒーカップをテーブルに戻した。
あらかじめ予定を決めていたわけではないが、ジョジョがいる久々の週末だ。食材の買い出し、今シーズン用のジャケット、新しい食器棚、見たいものはいくらでもある。元来インドア派であるはずの彼も賛成し、買い物を済ませたあとはジョジョが最近見つけたという紅茶専門店でアフタヌーンティーを楽しむ。デートというにはいささか所帯じみているかもしれないが、少なくともおれは大いに満足な休日だった。
仕事の成果を祝い、夕食は少し高級な店にしようかと提案したのだが「それよりシーザーの作ったメシが食いたい」と言われて思わずにやけてしまう。ただの素人であるおれの料理を楽しみにしてくれるなんてくすぐったい限りだ。そうねだられてはつい熱も入るというもので、その出来栄えにジョジョも喜んでくれた。
のんびりした時間を過ごせたことを喜びながらシャワーを浴び、ベッドに入れば自然と期待が膨らむ。ゆうべは確かに仕事のあとで疲れていただろうが、今日ならばその心配はない。経済誌に目を通していた彼はおれが浴室から出たあと交代するように風呂に入っている。昨日と同じように水音がやむのを待ちわび、違うのはおれが本を手にしていないことだ。
今さら気のないそぶりで駆け引きするような愚は犯さない。少しでもジョジョにためらわせてはおれの望むものは手に入らないかもしれなかった。不自然にならない程度に照明を絞り、部屋に大きなシルエットが現れるのを待つ。これからの期待に自分の吐息までうるんでいるようだった。
「あれ、まだ起きてたの」
しばらくして寝室に入ってきたジョジョは昨日と同じように口にする。おれはつとめて意味ありげに響くよう計算した声で「お前がいないのに、寝るわけないだろう」と返した。それを聞いた彼はわずかに頬を赤くしてぎこちなく視線をそらす。今日こそいける、間違いない。確信したおれはやっと生まれた余裕に笑みを深くした。
「珍しいじゃん、何飲んでんの?」
「ああ、ブランデーだ。取引先からもらったんだが、お前も飲むか?」
サイドテーブルに置いたグラスに気がついたのか、ジョジョが問いかけるのに答える。おれもそれほど詳しいわけではないが、そこそこいい酒のはずだ。水を向ければ「飲む」と返ってきたから彼の分もグラスを用意してやろうとキッチンに立つ。寝室に戻る前に時計を見上げ、愛を確かめあうのに何の障害もないことを再確認した。
明日は何の予定もない日曜だ。買いたいものは今日のうちに済ませておいたから慌てて出かける必要もない。おれの体も念入りに洗っておいたし、こんな夜に若い恋人たちが抱き合うのは当然の流れだ。ローションと避妊具の予備があったか、頭の中で数えながら部屋に戻る。薄暗い室内はムードもばっちりだった。
「…………………………ん?」
気配を殺したつもりもないのにジョジョの反応がない。いやに静かな部屋に悪い予感を覚えつつ、そっと覗きこめばベッドの上には彼と同じサイズのふくらみがあった。
「……マンマミヤ〜……」
漏らした声すら力がなかった。おれがキッチンから戻ってくるまでの短い間に眠りに落ちたらしいジョジョはぴくりとも動きそうにない。ゆうべと同じ展開に天を仰ぐしかできなかった。
――おかしい。ショックが過ぎれば冷静な思考も戻ってくる。夢の中の恋人を見下ろすおれは自然と苦い顔になっていた。出張に行く前のジョジョならこんなことはなかったはずだ。この数週間に何があったというのか。
真っ先に疑うのは浮気だろうが、その線は考えにくい。おれの希望的観測というだけでなく、ジョジョの態度は確かに愛情を示していた。デートの最中もそうだったし、夕食の支度中もやたらとまとわりついてきて、キスまでねだってきた彼が浮気をしているとは思えないのだ。あるいは彼が天才的ペテン師であり、おれに隠れて不貞を働いているのだとすれば今さらこんなことで感づかせたりはしないだろう。浮気でないのなら彼の態度は何を意味しているのか。どちらにせよ、楽しいクイズではなかった。
ジョジョはおれを愛している。その一方で求めることはしなかった。つまり、おれの体に魅力を感じていないのだ。マンネリという単語が脳裏に浮かぶ。恋人同士が互いに満足していればセックスレスだろうと悪くない。しかし、それでは物足りないのだ。この体ごと愛されたいと願うおれは静かに決意を固めた。
Naked Honey Heartbeat
シーザーのやつが肩すかしされた思いでいることは知っている。
なにせ、あいつがすぐ隣でオナニーしていたとき、おれは目を覚ましていたからだ。
金曜の夜、すぐに寝てしまったのは悪いことをしたと思っている。出張から帰って以来、妙にそわそわしているシーザーが夜更かしを期待していることは感じていたのだ。言い訳をするなら、土曜に埋め合わせをしようと思っていた。新支店が無事に営業を始めてからもそれなりに仕事が舞い込み、疲れた体を休めたかったのは確かだ。
ふかふかベッドの誘惑には逆らえず、つい眠り込んでしまったおれがその気配に気づいたのは少し経ってからのことだと思う。なぜならシーザーはすでにだいぶ盛り上がっていたからだ。おれはあおむけで寝ているし、あいつは背中を向けていたがこれだけ近ければさすがに察せられる。おまけにおれたちはラブラブな恋人同士なのだ、シーザーが感じているときの息遣いだってよく知っていた。
そっと開いた横目で見れば彼は背を丸めて自慰にふけっている。気づいたようすがないのをいいことに、息を殺してわずかな気配に耳を澄ませた。声をかけてやれば彼はどれほど驚くだろうと思いつつも、そんなことをすればこの続きを楽しめなくなってしまう。
当然だがおれはシーザーが自分を慰めているところを見たことはない。恋人が目の前にいるのにそんなもったいないことができるか、というのが彼の持論であり、彼氏のエッチなところが見たいおれとしては同意しながらもちょっぴり残念だった。その夢が叶った今、わざわざ邪魔をするはずがない。
無意識なのか、時折おれの名前を呼ぶシーザーはとんでもなくエロくておれの息子も反応してしまう。寝たふりを続けるためにさりげなく姿勢を変えてごまかし、そのはずみにおれの腕がシーザーの背中に触れた。とたんに息を詰めるシーザーがどんな顔をしているのか見たいものだが、それは諦めなくてはならない。そのまま動かずにいれば、おれが眠っていると勘違いしたシーザーはベッドを抜けだして洗面所に向かったようだった。
さて、とおれは考える。貴重なオナニーショータイムは終わってしまったわけだが、このことをシーザーに切り出すべきだろうか。知られてうろたえるシーザーも見たいが、そうすれば間違いなく二度目はない。今後おれがシーザーのエッチなところを見られる機会を潰してしまうわけで、考えるまでもなく悪手だ。少なくとも今触れるべきではない。
それに、ちょっとお預けされたくらいで耐えきれなくなるやらしい彼氏なら焦らしたぶんだけ反応がエスカレートしそうなものである。暗い寝室で人の悪い笑みを浮かべたおれは素知らぬ顔で寝たふりを続ける。そうして金曜と土曜の二日続けてシーザーの期待を裏切ってみせたわけだ。
ゆうべの反応は思ったよりにぶく、この作戦を続けるべきか迷いが生まれている。おれ自身もシーザーに触れるのを我慢しているわけで、策を巡らせずに飛びついたほうがよかったかもしれない。どう出るべきか考えあぐねるおれは体にのしかかる重みに目を覚ました。
「朝だぞ、ジョジョ。早く起きろ」
「……おはよ。ずいぶん情熱的な起こし方ネン」
布団の中から出ていないおれの上にシーザーがまたがっている。バスローブをまとった彼からはせっけんの匂いがただよい、その肌はカーテン越しの光の中でしっとりと輝いていた。日曜の朝からシャワーを浴びてバスローブ一枚で彼氏に乗っかるなんてセクシーすぎと違う? 露骨なお誘いにおれは内心でガッツポーズを決める。おあずけ作戦大成功だ。
こうなるとシーザーの反応がもっと見たくなって、わざと気づいていないふりを続ける。手を出してこないおれに業を煮やして誘惑してくるくらいだから、なおも焦らしていればさらに大胆な行動に出るだろうという読みだ。今すぐにでも押し倒したいのを隠し、いかにも眠たそうにあしらう。バスローブの合わせからのぞくおっぱいが目に毒だった。
「今日は別に予定ないだろォ? もうちっと寝かせてくれよ」
「……ゆうべだって早く寝ただろ」
すねたように呟くシーザーがやけにいじらしく見え、興奮のままに行動しそうになるのをなんとか思いとどまる。エッチできなかったのがそんなに不満なのか、彼氏冥利につきるというものだ。短い沈黙ののち、おれを呼んだシーザーが体を起こす。おっくうそうに見えるよう気をつけて視線を投げ、そんな演技も忘れるくらいの光景を目にした。
やけにゆっくりバスローブを脱ぐシーザーは下着を身に着けている。おれとしてはここでノーパンというのも非常にエッチでいいと思うのだが、とにかくあいつは一枚穿いていた。初めて見るそれはおれが出張に行っている間に買ったものだろうか。やけに面積の狭い布とレースでできた下着は、おれの知る限りではセクシーランジェリーと呼ばれるものだった。
驚きのあまり動けずにいればシーザーも居心地悪そうに沈黙している。もちろんおれの視線はシーザーの股間に釘付けだ。白いそれは女性用のデザインであってもサイズは男性に合わせて作られているのか、少々窮屈そうではあるが大事なところはしっかり覆われている。バスローブをすっかり脱ぎ捨て、これだけ大胆なことをしながらもシーザーはどこか恥じらうようにおずおずと口を開いた。
「…………こんな、いやらしいおれは嫌いか?」
興奮で頭がどうかしそうだと思ったのは初めてだ。はだけたバスローブを掴んでシーザーの体を組み敷けば、彼は待ちわびていたように目尻をゆるませる。男に抱かれるのはおれが初めてだったはずなのにこんなにエロいなんてこっちの身がもたない。朝の日差しに照らされる肌は湯上がりで熱を持ち、体を覆う唯一の布地は劣情を煽るためにできている。これだけ卑猥な姿の恋人を前にして焦らすなんてできるはずがなかった。
「なんなんだよ、このパンツ」
「……やっぱり、おかしいだろうか」
「そうじゃなくて、なんでこんなの穿いてんの」
感触を確かめるべく下着に手を這わせればシーザーは小さく身を震わせた。ちょっと力を込めれば簡単に裂けてしまいそうなほど頼りないパンツは実用性なんてこれっぽっちも考えてないに違いない。前面はレースの装飾がたっぷり施され、トライアングルを覆う布は紐に支えられている。その紐がきれいなリボン結びでシーザーの腰を飾っているのが実にエロかった。
「…………お前が、手を出してこないから……飽きられたのかと思って、だな……」
「それでスケベなパンツで誘ったってわけ? もー、たまんねーな」
シーザーの答えはおれの読み通りだった。ちょっぴりおあずけしただけでこれだけ露骨な行動に出るなんて、激情家のシーザーらしいとも言える。わざと焦らして反応を楽しんでいたことはおれの胸にだけしまっておくことにして、布の上からでもわかるふくらみをなぞるとシーザーの腰が跳ねた。もうおれの頭のどこにも眠気は残っておらず、わずかな反応でも見逃すまいと真剣な表情になる。そんなおれを見てシーザーは黙って頬を赤らめた。
彼がこんなエロい下着を穿いているところを見るのは初めてだ。正直に言えば、こういう格好をしてくれないかと妄想していたことはある。おれの脳内のシーザーが身につけるのは黒だとか赤の派手なランジェリーで、白というのは魅力がないような気がしていた。今ならその考えがまるで見当違いだったことがわかる。薄っぺらい下着は身を隠すのにまるで不十分で、繊細な装飾の下でシーザーの性器が脈打つさまも伝えてしまっていた。布越しにしごいてやれば先端からにじんだ先走りがパンツに染みを作る。濡れて貼りついた布の下に肉の色が透け、清楚にも見える純白とのアンバランスさにくらくらした。
パンツの上から輪郭をたどるように舌を這わせると、唾液で濡れたぶんだけ幹の色が浮かび上がる。繰り返し根元に吸いついていれば布越しの刺激がもどかしいのか、シーザーの手が伸びておれの髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。おれに求められたいらしい彼はしおらしいとも言えるおとなしさでもたらされる愛撫を待っている。引き剥がすわけでもないその動きを無視して、見せつけるように舐め上げればシーザーの指に力が入った。
「ほーんとやらしーよなァ、そんなにおれとエッチしたかったの?」
「……悪いかよ」
「全然。セクシーな彼氏大歓迎だぜ」
すっかり固くなったシーザーの性器は大きさを増してパンツを押し上げている。苦しそうなそこは少し布をずらすだけで上向きの先端が顔を出した。透明なよだれを垂らす小さな穴にくちづけると熱っぽい吐息が聞こえる。先っぽを舌で刺激しながら手で何度もしごくうち、我慢できなくなったのかシーザーの手がパンツに伸びた。邪魔な布を脱ごうとする動きに、その手を掴んで押しとどめる。
「ジョジョ……? 早く、脱がせてくれ……」
「なァに言ってんの。こういうのは脱いだら意味ないだろ」
「な……! おれは、そん……ひ、ンっ!」
もどかしく思っているのだろうシーザーには悪いが、長期出張のおかげで手に入れためったにないチャンスなのだ。恋人がこれだけ扇情的な格好をしているというのに脱がせてしまうはずがない。かといって、セクシーランジェリーで誘惑してくるほど思い詰めているシーザーのことだ。今さら恥ずかしいからと渋るはずもなく、おれを受け入れるしかないことはお互いわかっていた。
きわどいところしか覆わないパンツのために、シーザーの下腹はきれいに処理されている。なめらかな肌を撫でると少しもひっかかるところがなかった。今度は下着の上から彼の根元を握り、逆の手で陰嚢から会陰を刺激する。もどかしいはずの愛撫にもシーザーは何度も喘ぎ声を漏らした。唯一露出した先端に舌を這わせ、わざと視線を合わせながら舌先で尿道口をこじあける。大きく開いた白い脚が小さく震え始め、切なげに頬を染めた彼が小さく訴えた。
「も……ジョジョ、だめ、だ……!」
「いいよ、イっちまえって」
絶頂を迎えたシーザーの精液を受け止める。丸まったつま先がシーツに波を作り、細い喘ぎが彼の快感を伝えていた。ねばついた液体で口の中を満たして、ぐったりと力を抜いたシーザーの上に覆いかぶさる。逃げられないようその顔を掴んで唇を寄せ、彼の出したものを口移しで飲ませた。
「ん……む、ぁ…………」
「……どぉ、自分の精子のお味は?」
いやらしく聞こえるよう選んだせりふにシーザーはまつげを一度伏せる。その手が持ち上がったと思えばおれの頬に触れ、ささやくように「お前のも、飲みたい」と言われて断るはずがなかった。
エロ下着を穿いた恋人のおかげでおれのジュニアはずっと臨戦態勢だ。来ていたパジャマを放り投げる瞬間にまだ朝だということを思い出し、忘れかけていた背徳感がよみがえる。同時に、夜まで待てなかった恋人の素直さがいとしくてたまらなかった。
両膝で彼の頭を挟むようにして性器を口元に押しつければ、シーザーは待っていたように口を開く。熱を持ったそこが濡れた唇に触れて一層固さを増した気がした。
長い指が根元に絡み、先端は何度もキスを落とされる。ようやく彼の口の中に招かれ、別の生き物のように動く舌がおれの性感を高めていった。ひと月近く味わっていなかった感覚は体を熱くさせるのに十分で、知らず荒い息が落ちる。身動きしにくい体勢の彼が首を傾け、頭を動かし、飽きずに愛撫を加えてくれるのがたまらない。応えるようにおれも腰を揺らせば口淫が激しさを増した。
「たぁっぷり、飲んでくれよな……ッ」
限界までふくれ上がった性器を押し込んで言えばシーザーは催促するように先端に吸いついてくる。飲みたいと言っていた言葉通りに注ぎ込めば、苦しそうなはずの呼吸も甘い響きを持っていた。おれが吐き出し終わったあとも、一滴も無駄にしたくないというようにあちこちを舐め回す熱心さだ。嫌がるそぶりすらなくきれいに飲みほしたシーザーの瞳は濡れ、その奥には情欲の炎が灯っている。残っていた精液までお掃除してくれた彼はやっとジュニアから唇を離した。
「……濃い、な。向こうに行ってた間、自分で抜かなかったのか?」
「そりゃ、シーザーとのトロトロエッチ知ってるのに自分の右手なんかに浮気できねーだろ。責任とってくれよな、ハニー」
そう言えばシーザーは小さく「……スカタン」と返す。怒っているふりをしても内心喜んでいるのはばればれだ。乗り上げるようにしていたシーザーの体から下り、裸の胸の中でつんと上向いている乳首にキスをおくる。彼のそこはすでに性感帯として開発されており、触れるだけの刺激が物足りないと言うように金色の眉が下がった。
「……まぁ、シーザーちゃんは一人で抜いてたみたいだけど?」
「……――なッ!? テメー、なんで……んぁっ!」
言いかけた途中で彼のパンツに手を伸ばせば気色ばんだ言葉も途切れた。つくづくエロい格好だ、セクシーランジェリーを身につけた彼氏が肌を染めてベッドで待っている。まだまだヤりたいさかりであるおれとしては、たった今出したことも忘れてシーザーの中にぶち込みたくて仕方なかった。
すっかり濡れてスケスケのパンツを握り込めば組み敷いた体が震える。手の中の性器はむくむくと元気になっているというのに、シーザーの表情は今しがたのおれの言葉にショックを受けているようだった。無為に唇を動かしては言葉が見つからないらしい彼にもムラムラする。やっぱりその場で言い出さなくてよかった。
「エート、おとといだっけ? ぐっすり寝てるおれの横でこっそりイイコトして」
「言うな! き、気づいてたならなんで黙ってたんだ!」
「そりゃ、言ったらやめちゃうだろ。おれの名前呼んだりして、かわいいんだからァ」
種明かしをしてやればシーザーは羞恥に震えている。今さらヘソを曲げられたら困るのだ、おれもシーザー自身も。ヤケになった彼がもうやめだと言い出さないよう、なだめるように額にキスして優しく言い聞かせる。
「もうそんな寂しい思いはさせないって。シーザーが欲しいと思ったときにはおれをやるよ」
「……調子のいいことばかり言いやがって」
「本当だって。信じてくれ、ダーリン」
ここぞとばかりに甘い言葉をかければシーザーの表情もやわらかくなる。こいつ、こんなにちょろくていいんだろうか。騙されやすそうな恋人はおれがついていないとだめかもしれない。今はそのまま騙されてもらうことにして、「うつぶせになって」と言えば彼自身の望みでもあるのだろう、あっさり従って腰を高く掲げる。あらわになった光景に思わず口笛を吹いた。
デザインからしてそうじゃないかと思っていたが、本当にTバックだった。それもほぼ紐だけのTバックだ。白い紐が白い尻に食い込んでいるさまをまばたきも惜しんでしっかり目に焼き付ける。その下からピンク色のすぼまりがのぞき、おれを誘うように小さくひくついていた。
欲望に任せて指を伸ばし、そのつつましい口に押しこむ。すでに慣らしていたのだろうそこは濡れた内壁が出迎えてくれた。出張の間も爪の手入れを忘れなかったのはひとえにおれの愛であることをわかってもらいたい。もう一本指を増やしても彼の後孔は難なく飲み込んでしまう。それだけでも焦らされていると思ったのか、うつぶせたままのシーザーが顔だけをこちらに向けて「早く、挿れてくれ……」と訴えた。
恋人のおねだりにどうしようもないほど興奮し、やけにのどが乾く。彼はさっきまでパンツを脱ぎたがっていたはずだが、もう構っていられないくらいに欲しくて仕方がないらしい。無意識のうちに舌なめずりして、すでに熱を蓄えた性器をあてがった。
細い紐を押しのけてペニスの先端で触れると小さな入口は急かすように収縮する。一気に奥まで挿入すればシーザーの背が大きくしなった。
「――は、ッん、あ、ぁあー……!」
「……すげぇ、トロトロ……」
ローションで濡れたシーザーの中は熱くて柔らかくて、最高に気持ちいい。深いところまで犯した性器をゆっくりと引き抜けば内壁が追いすがるように絡みつく。久しぶりに味わう恋人の体に、おれも我慢がきかない。白い腰を両手で掴んで勢いよく穿てば、奥まで開発されきったシーザーは甘い声を漏らして身悶えした。
腰だけを上げてシーツにすがりつく彼を後ろから揺さぶっていると、無理やり犯しているような錯覚が生まれる。その上シーザーはエッチなパンツを穿いたままで、おれが妙なプレイに目覚めてしまったら間違いなくこいつのせいだ。きれいに筋肉がついた背中がうねり、律動を繰り返すたびに快感を逃がそうともがく。彼が好きな一番奥と浅いところの両方を刺激するようにストロークを繰り返せば感じ入った悲鳴が響いた。
「や、ぁ、ジョジョ……! んぁ、すごい……!」
「おれもイイぜ、シーザー……」
おれと出会って以来、他の相手に触れられたことのない体はどこもかしこもおれ好みだ。彼の背中にのしかかるようにして身を伏せ、うなじを舐め上げれば驚いたように声を上げるシーザーがこちらを振り向く。非難がこもった視線も気にせず、白い首筋をきつく吸い上げると赤いキスマークが咲いた。
「また、そんなところを……舐めるなって言って、んァッ!」
「気にしなくってもォ、シーザーの汗の味、嫌いじゃねえぜ? それに、オメーだってこういうの好きだろ」
口では不満そうなことを言うシーザーが、あちこちを吸われたり噛まれたりするたびに快感を拾っているのは知っている。きゅんきゅんと締めつけてくる内壁を示すように腰を揺らせば赤い顔をした恋人は黙ってしまった。互いの体をぴったりくっつけたまま性器を抜き差ししてやわらかな内側を楽しむ。キスマークのすぐ横にもう一度跡をつけても今度は何も言われなかった。
彼の奥に先端を押しつけたまま右手を前に回す。はっきりと存在を主張する乳首を優しく撫でればねだるような仕草で胸が押しつけられた。お望み通りに少し力を込めてひっかいてやると喘ぎ声とともに白い体が揺れる。シーザーは小さな尖りを強めに引っ張られるのが好きで、今もシーツを握りしめて快感をやりすごしていた。熱を持った耳朶を唇で食むおれに流し目を寄越した彼はいつもよりずっと頼りない声でささやく。
「それ……イイ、から……もっと……」
「……かわいー、シーザー」
頬を染める彼に言ったのは心からの真情だった。付き合い始めたころは「かわいい」なんて言えば鉄拳で応じるか、もしくは一日拗ねていた彼がおれの言葉を素直に受け止めてくれるようになる。それだけ一緒の時間を過ごしてきたということだ。女扱いしたいわけではなく、愛おしいからこそだとわかってもらうまではそれなりの時間がかかった。そんな頭の固ささえ好ましいと思ってしまうのだからおれも大概だ。
うごめく内壁に愛撫されて、ただでさえ久しぶりで溜まっていたおれには刺激が強い。もーヤバい、とうめけばシーザーが頷くように首を振った。
「――おれ、も……一緒に、イきたい……」
こんなの、たとえ殴られたってかわいいと言いたくなるってものだ。腹の奥底に生まれた衝動に逆らわず、その熱量をぶつけるように律動を再開する。甘い喘ぎが悲鳴じみた声に変わっても、シーザーはおれの手を拒まなかった。
好きなように腰を振り、濡れた隘路に精液をぶちまける。その瞬間に響いたシーザーの切ない声にこの部屋が防音仕様でよかったとつくづく思ってしまった。この声が漏れていたら隣室の住人が変な気を起こしかねない。恋人の欲目と笑われようとも、おれにとっては切実な心配の種だった。
達した性器を引き抜き、ぐったりと枕に頬をつけたシーザーの髪をかきあげる。潤んだその瞳がこちらを向いて気の抜けた笑みを浮かべた。すっかり脱力したようすをいいことに、うつ伏せの体をひっくり返せば濡れた下肢があらわになる。後孔への刺激だけで達した彼の性器はまだ固さを保っていた。
疑心と期待が半分ずつ入り混じった視線を頬に感じながら白いパンツに手を伸ばす。わざと緩慢な手つきで布越しにこすりあげ、シーザーの視界を塞ぐようにしてキスするのは左手の動きに気づかせないためだ。案の定、うっとりと目を閉じた彼はまったく警戒していない。音を立てないように注意しながら後ろ手でサイドチェストを探り、代わりに舌で水音を立てればキス好きのシーザーは子どものように吸いついてきた。
「……ん、ジョジョ……なに、やってるんだ……?」
目的のものを取り出し、身を起こしたおれにシーザーがようやく問いかける。小さなそれをシーツの合間に隠し、白いパンツをずらして彼の性器の先端までかぶせたおれは人の悪い笑い方をしていただろう。ゆるんだパンツの紐をしっかり結び直せばシーザーは窮屈そうに眉を寄せた。
「シーザーちゃんは後ろでイっちゃったけどォ、ちゃーんとこっちでも気持ちよくなりたいだろ?」
「……何を考えてやがる」
「それは見てのお楽しみ、だぜ」
言いながら隠していた器械を取り出せばシーザーは驚いたようにまつげを動かした。小さな卵型のそれはいわゆるピンクローターだ。今までにも遊んだことのあるおもちゃはローションと同じ抽斗の奥にしまいこんでいて、本体から伸びるコードとリモコンを頼りに取り出した。冷たいおもちゃよりおれがいいと恥ずかしげもなく言う恋人のことだから、いつもなら取り上げられるか蹴り倒されるかのどちらかだが、抱かれて達したあとの余韻を引きずる今の彼にその余力はない。それでも伸びてきた手に指を絡め、しっかり視線を合わせながら唇を寄せればシーザーは迷うように瞳を揺らした。
どうやら今日のシーザーはおれの手を拒むつもりはないらしい。彼がこんなにしおらしいのは、浮気を疑ったおれが詰め寄ったとき以来じゃないだろうか。これだけかわいい反応をしてくれるのならこれからは彼を焦らすのにハマってしまうかもしれない。シーザーが知れば怒り出しそうなことを考えつつ、濡れた白いパンツに触れる。ふくらんだ彼の性器のせいで余裕がなくなった布はシーザーの肌にぴったりと貼りついていた。
サイドの紐がほどけないように気を遣いながらわずかな隙間を作り、そこにローターを押しこむ。性器にもたらされた感触に小さなおもちゃをどう使うのか理解したシーザーが抵抗しても、おれの指がスイッチを入れるほうが早かった。
「――ひ、ああぁっ! ん、ぅああー……っ! ジョジョ、や、ぁあっ……!」
最も刺激に弱いところにローターを押しつけられ、澄んだ色の瞳がおれを映す。びくびくと体を跳ねさせるシーザーがもがいても、パンツで押さえつけられたローターが外れることはない。目に涙を浮かべて喘ぐ恋人の姿におれの呼吸も熱っぽさを増した。
「……ゃ、あっ!? お前、今、出したばっか……ッ、ふぁ……!」
「オメーも言ってただろ。おれ、すっげー溜まってるしィ?」
数度しごくだけでピンと反り返ったジュニアを押し当てればシーザーは信じられないというように目を見開く。そりゃ、こんなにエロい恋人を前にして反応しないはずがない。シーザーのパンツにもぐりこませたローターは止めず、仰向けの彼の足を胸につくほど折り曲げさせた。
白い下着はすっかり濡れ、性器とローターに貼りついてその形を浮き上がらせている。布が前に引っ張られたせいでTバック部分は浮き上がり、ますます頼りなくなった紐の下からピンク色の粘膜が覗いていた。閉じきらない後孔からはおれが出したばかりの精液が伝っている。乾いた唇を舐め、ゆっくり腰を進めれば濡れた粘膜が吸いついてきた。
「ひ、ぁ、ああっ……! 待っ、ンン……!」
「……わかる? 中、動いてんの。やらしー」
絶頂を迎えたあとで、敏感になっているシーザーの後孔は挿入を喜ぶようにうごめく。奥へと誘いこむような動きに唇の端が持ち上がった。白濁液でぬかるんだそこはわずかに揺らすだけでもぐちゅぐちゅと音を立てる。彼の体がびくびくと跳ねるのを押さえこむようにして深く穿てば、性感帯を同時に責められたシーザーは涙をこぼして喘いだ。
「ゃ、じょじょ、んぁ……! も、取って……ヒ、あぁ……!」
「なァに? もっとってことォ?」
「ち、が……――ぁあああっ!」
わざとわからないふりをして、彼のパンツから伸びたコードの先、ローターのリモコンに手をやる。シーツの上のそれを操作して一番強いレベルまで引き上げるとシーザーは背を反らして達した。その瞬間に締めつけられて思わず息を吐く。出会って以来数えきれないほど体を重ねてきたおれたちの相性は最高だった。
全身をシーツに投げ出して荒い呼吸を繰り返すシーザーには悪いが、もうちょっぴりだけ付き合ってもらいたい。奥まで挿れたジュニアをゆっくり引き抜けば白い太ももがびくりと揺れた。
「も、無理、だ…………や、ん、あぁーっ……!」
「シーザーのヤダはイイって意味だっけ? ほら、こっちはおれの欲しがってるみたいだし」
「ひ、じょじょぉ……! ん、ぅ、ひぁっ!」
催促するようにひくつく後孔はおれに絡みついて離れない。感じきったようすのシーザーは少し腰を揺らすだけで泣き声を漏らした。不随意に痙攣する内壁はそのたびにおれの形を感じ取ってしまうことだろう。すっかり色を変えたパンツの中からはローターの動作音が低く響いている。高められたうえで快感を叩きつけられるシーザーをかわいそうに思いながら、それにすら興奮して律動を速めた。
「……あー、もーヤバい……」
「ん、ゃ、中に……あ、ぁあー……!」
一番奥に押しつけるようにして達し、精液を彼の中に注ぐ。最後まで吐き出せば快感に視界が白く明滅した。すでにイきやすくなっていたシーザーはまた絶頂を迎えたらしく、切れ切れの呼吸を繰り返しながら枕に頭を埋めている。赤くなった目尻に残る涙の跡を舐め、シーツの上を探ってローターのスイッチを切った。気だるげに振り向く恋人がとんでもなく色っぽくて、世界が日曜の朝を過ごしていることがとても信じられないくらいだ。
白いセクシーランジェリーに手を伸ばし、だいぶゆるんでいた紐を引っ張ればあっさりほどける。パンツの内側で射精した彼のおかげで布地とは異なる濃さの白で濡れたそれを持ち上げると、シーザーは気まずそうに目をそらした。
「すげえ、ぐちゃぐちゃ。もう穿けねえな」
「……誰のせいだと思ってるんだ。だから脱ぎたいと言って……まあいい。捨てろ」
「え、なんで? 捨てるくらいならおれがもらう」
「バカ、自分で捨てる」
言ったシーザーが取り返そうとしても、身長差に加えてほとんど動けない彼の手は届かない。精液にまみれた小さな布を見せつけるように両手で広げればシーザーのつま先がすねを蹴った。
にしてもセクシーランジェリーって、どういうことなんだ。積極的なタイプだとは思っていたが、こんなにエッチなお誘いなんて予想外すぎる。彼の性格とおれへの愛情を思えば浮気を疑いはしないものの、どういう心境の変化か気になるところだ。ぐったりしたシーザーが逃げられないのをいいことに問えば彼は一瞬顔をしかめた。
「……お前が出張中に、部屋の掃除をしたんだ。いつもより念入りに」
「ああ、大好きなジョジョがいなくて寂しいから掃除で気を紛らわせようとしたってこと?」
「うるさい、調子に乗るんじゃあねえ。……そしたら、お前の部屋からポルノ雑誌が出てきて」
「…………んん?」
「雑誌の……そういうのが好きなんだと、思って、だな……」
言ううちに恥ずかしくなってきたのか、シーザーの声はどんどん小さくなっていく。一方おれは何のことかと記憶をたぐり寄せては首をひねった。セクシーランジェリーのポルノ雑誌なんておれの部屋にあっただろうか。
「あ」
やっと思い至ったおれは小さく声を上げた。彼が言うのはあれのことだろう。出張前、シーザーと離れるのが耐えられなくて、せめて金髪碧眼の美女が表紙を飾る雑誌を買った。ハメ撮りを許してくれない恋人の代わりにと思ったものの、当然というべきか代用になるはずもなく諦めて部屋に置いていったものだ。
一度めくっただけでその後は出張に出てしまったから記憶は薄いものの、そういえばセクシーランジェリーの特集が組まれていたかもしれない。あとで捨てようと思っていたような雑誌に感化されて行動にうつしてしまうシーザーの単純さがいとおしかった。
ということは、だ。彼の行動の理由を理解したおれはついつい悪だくみを始めてしまう。もっと過激なエロ本を置いておけば、またそういうシチュエーションでエッチさせてくれるんじゃないだろうか? 恋人に不満を抱いているわけではなくとも、健全な20代男性としてはいろいろと妄想がふくらんでしまう。確か、ジャパンにはマニアックな本が多いとも聞いた。男のロマンのためなら輸入の手間だって厭わないくらいだ。
期待に鼻息が荒くなるのを抑えるおれの左手にシーザーの指が絡む。顎を持ち上げ、無言でキスをねだるハニーは間違いなく世界で一番スイートだ。不安にさせてしまったことを胸の内で詫びて、望まれたものを与える。やきもきさせたぶん、じっくり埋め合わせすることにしよう。なにせ今日が終わるまでまだまだ時間があるのだ。閉めきった窓の外からは日曜にふさわしいのどかな喧騒が聞こえていた。