そういうミステリー・完結編

 おれは悪くないはずだ、とシーザーは言い訳のように胸中でこぼした。
 一度目は修行の一環として興奮剤、二度目は取り違えた結果惚れ薬、三度目にいたっては邪な目的で自白剤を飲まされた。どれひとつとしてシーザーの意志によるものではなく、その結果も彼にとっては予想外続きであった。妙な経緯を経て今はジョセフと恋人と呼べる仲に発展したわけだが、彼ばかりが薬に振り回されて不満に思わないわけがない。自分の身に起こったあれこれを思えば、これくらい許されてしかるべきだろうというのがシーザーの言い分だった。

 シーザーがヴェネチアに向かったのはそれが目的だったのではない。あくまで師に言いつけられた所用のために訪れたのだが、あやしげな物売りのあやしげな言葉を聞き流せなかったのは事実だし、手持ちの金をはたいてそれを買ったのもシーザーの意志だった。
 結論から言えば、シーザーはうさんくさい口上の薬を買い、こっそりとジョセフに飲ませることに成功した。その薬のラベルには、媚薬と書かれていた。

 その結果、現在シーザーはジョセフに押し倒されていた。天井の照明を背中に負う彼の瞳はらんらんと輝き、常ならぬ光でシーザーを射抜く。肩で荒く息をつき、赤く染まった目尻にうっすらと涙を浮かべて「……シーザー」とかすれた声で名を呼ぶジョセフはどう見ても平静を欠いていた。

 彼が切羽詰まった表情を浮かべる理由などとっくに知っているシーザーは今さらのように罪悪感が込みあげて、深く考える前にジョセフを戒める金属のマスクに手を伸ばす。
 ぱちん、と軽い音で弾かれた矯正マスクを左手に取り、汗に濡れる髪をかきあげてやろうと空いた手を持ち上げると手首を掴まれた。そのままいとおしむように頬を寄せられ、シーザーの体温が急に上がる。覆いかぶさったままで腰をぐり、と押し付けられて、これはやばいかも、と彼の頭に警鐘が鳴った。

「シーザー、おれ……」
「待っ、待て! っの、当たってる! てめ、すりつけるんじゃねえっ!」

 マウントポジションを取ったままジョセフが腰を動かすのでシーザーは慌てる。もがく拍子に太ももが彼の昂ぶりをかすめて、布越しに触れる感触を覚えず息を詰めた。二人とも一糸乱れぬ姿だというのにそこは固く、ひどく熱くなっていた。
 実際のところ、薬の効果については半信半疑だった。きっと商人に騙されたのだろうな、と考えていたシーザーは媚薬が如実に効果を発揮したことに大きな驚きと罪悪感を同時に覚える。お前も薬に振り回されてふらふらになってみやがれ、と仕返しの気持ちで薬を盛ったのは確かだが、思ったよりも強い効き目を発揮したことで申し訳なさが勝った。もともとシーザーは騙しやペテンが得意な男ではない。腹をくくって、「ジョジョ」と口を開いた。

「……お前、体が変じゃないか」
「変……つうか、熱く、て」

 言うジョセフの息は荒く、肌を伝った汗が顎先から滴った。変調をきたす己の体に苦しんでいるのが伝わり、妙ないとおしさがシーザーの胸に生まれる。「おれのせいなんだ」と伝えるとジョセフの丸い目が不思議そうに見つめてきた。

「今日の夕食、変な味がしなかったか」
「へ? ……あー、そういやシチューなのにやけに苦かったような」
「おれが、媚薬を入れたんだ」
「はぁ?」

 びやく、とおうむ返しにジョセフが呟く。気の抜けたその隙をついて厚い胸板を押しのけると簡単に巨体が揺らいだ。「こんなに効き目が強いとは思わなかったんだが」と言うシーザーの胸には確かに罪悪感が大きいのだが、言い訳にしか聞こえなくても仕方ないだろう。
 いまだ混乱したようなジョセフをシーツの上に座らせ、伸ばした手で彼の下肢を探る。服の上からでもわかるほど張り詰めた感触に覚えず苦笑が浮かび、見咎めたらしいジョセフが唇を尖らせた。

「……笑うなよ、だいたいおめーが薬なんか盛るから……」
「わかってる、だから……責任、取ってやるよ」

 そう言って、今度は意図的に唇を釣り上げればジョセフの喉仏が動く。わかりやすい反応に気を良くして下着ごと布地を取り去ると、ピンと反り返った彼の熱が露出した。触れる前からはっきりと臨戦態勢になっているそこを見て、ずいぶん効く薬を買ったものだとシーザーは場違いに感心する。
 これだけ腫らしていれば辛かろう、とどこかいとおしさがこみ上げてそっと舌を伸ばした。根元から舐め上げる動きにジョセフの呼吸が乱れ、抑えが効かないように腹筋が痙攣する。常より顕著な反応にかわいいな、なんて思いながら口を開き、咥えこむと頭上からひきつった呼気が漏れた。

「……はっ、シーザー、すげ……イイ」
「ふ……いつもより……ンぅ、でかくしてんじゃねえ、スカタン……ッ」

 口では乱暴な言葉を吐くシーザーだが、金髪に触れるジョセフの指先に知らず目を細める。彼の弱いところはとっくに覚えこまされていて、舌先でくびれたところを責めると口の中の熱が震えた。咥えきれない根本を握り、手を上下させるとたちまち昇りつめる。抱え込むように頭を掴まれてシーザーは目を見開いた。

「……ッ、出る……!」

 ジョセフの切ない声と同時に口内に青臭い味が溢れてシーザーの体は痺れを覚えた。注がれる精液を喉を鳴らしながら懸命に飲み下し、吐き出し終えた性器をずるりと引き出す。唾液と精液が混ざり合った液体が一瞬橋を架けた。

「ン……濃い、な」

 揶揄する声で言いながら、見せつけるように指の腹に残った粘液を舐めとる。それだけで彼の性器がまた熱を帯びるのがわかって、シーザーは喉の奥で笑った。不意に伸びてきた手に顎を捉えられ、無理やり上を向かされるとジョセフと目が合う。そのぎらぎらした光に心臓が跳ねた。

「シーザー……おれ、まだ足りねェんだけど」
「……責任取ってやる、って言ったろ」

 言って、ベッドサイドのチェストに手をのばす。シーザーが拒む理由を一つずつ潰すことに躍起になるジョセフであるから、抽斗には潤滑油が用意されていることはもう知っていた。
 ジョセフの急かすような視線を感じながら下肢を覆う布を乱暴に蹴り脱ぐ。チェストから取り出した容器を傾けると粘り気のある液体が垂れた。油を片手に受け、濡れた指先をあわいに伸ばす。自身のものとはいえ異物が入り込む感覚にシーザーは息を詰まらせた。

「……自分で慣らしてくれるの、サービスいいじゃん」
「ふ、ぅ……ッ、てめえにがっつかれるより、マシだ」

 食い入るような視線をシーザーの足の間に注ぐジョセフの声はすこしばかり上ずっていた。彼の前で足を開き、受け入れるために自ら指を突っ込んでいる己の姿を脳裏に描くと死にたくなる。それでも、なにより身の安全のためにシーザーはそうせざるを得なかった。
 薬によって性欲を煽られたジョセフの目はあやしく輝き、今しがた精を吐き出させたばかりの性器もすでに熱を持って膨らんでいる。今の彼なら気遣いもなく突っ込みかねない、そう考えたからこそシーザーは羞恥にも耐えて自ら指を差し入れていた。垂らした液体で濡れたそこがぐちゃぐちゃと水音を立てる。息を詰めながら三本目の指を挿入したところで、シーザーの肩にぴりりと痛みが走った。

「……もー、無理。早く挿れてえ……」
「――……ッ」

 いつのまにか閉じていた目を開けば至近距離に迫ったジョセフの顔がある。シーザーの肩に食い込む手の力は強く、体温もよほど高い。我慢の限界に至ったのだろうジョセフの頬を一筋汗がすべり落ちて、クラクラするほどセクシーだった。彼の熱気にあてられたように鼓動が速くなるのを聞きながらシーザーはそっと唇を寄せる。ふいうちのキスに驚いたようなジョセフの膝に乗り上げ、見せつけるように足を開いた。

「……優しくしてくれよ、ダーリン?」

 艶をのせた笑みに撃ちぬかれたように動きを止めるジョセフに構わず、熱を孕んだ彼の性器に手を伸ばし入り口にあてがう。ゆっくりと体重をかけると侵食される感覚に喉が反った。明らかにいつもより体積を増している昂ぶりを収めきるために呼吸が引きつれる。浅い息を吐きながら、腿の裏がジョセフの体温に触れる感触で最後まで入ったことを知った。

「……なァに、積極的じゃん」
「黙っ……ン、ぅ」

 対面座位の格好でゆっくりと腰を振る。かさの張った部分が浅いところをこするたびシーザーの腹筋が痙攣した。熱い楔が体の中を往復する感覚に酔いそうになる。知らず、快感を追いかけるように動いていた体が切っ先で前立腺をえぐり、内壁がきゅうと収縮するのがわかった。

「――っ、く」
「うぁ……っ?」

 ジョセフのうめき声とともに熱い感覚が広がって、シーザーの口から抜けた声が漏れた。一瞬の間を置いてから理解し、薄い唇を満足気に持ち上げる。「早ぇよ」と笑うとくやしそうな声が返ってきた。

「……仕方ねえだろ、おれのせいじゃねえっての」
「は、そうだったな。……まだ、満足してないんだろ?」

 薬の効果に高められてあっけなく達したジョセフだったが、シーザーの体に埋まる熱は元気なままだ。それを示すように腰を揺らすとたちまち反応して硬度を増した。赤い目もとに涙を浮かべて恨めしそうにこちらを見やるジョセフがなんだかかわいらしくて、シーザーに薬を盛った彼の気持ちが今ならわかる気がする。望むままに煽られる恋人の姿にシーザーは満足気に笑んだ。
 その笑みが消える前に下から突き上げられてかすれた声がこぼれる。腰を両手でつかまれ、勢いよく穿たれてシーザーの背がしなった。激しい交合に体が逃げを打つが、がっちりと拘束されてしまってはかないそうにない。上から押さえつけられるように力が加わり、奥までねじこまれて嬌声が飛んだ。

「ぁ、ひぁんっ! ふ、ジョジョ……激し、ぅあ!」
「――責任、取ってくれんだろォ?」

 言葉に合わせて抜き差しされ、強い快感がシーザーを苛んだ。恥ずかしさを押し殺してでもジョセフの上にまたがったのは自分が主導権を握るためであったのに、腰を押し付けるように突き上げられていいように揺さぶられる。嫌がるように彼の両手に触れればジョセフの眉が上がって、それから意地悪い笑みの形に変わった。

「悪ぃ悪ぃ、シーザーちゃんが抜いてくれるんだもんな。ほら、好きに動いていいぜ」
「ぅ……この、スカタン……」

 途端にジョセフは手を離し、どうぞお好きにといったふうに両手を広げる。ジョセフの意図通りに動くのはなんとも癪だが、奪われかけた主導権を取り戻すには他に方法もなかった。そろそろと手を伸ばして、後ろ手に体重を支えると自然と腰が突き出されて結合部を晒す格好になる。唇を噛んでわずかに体を浮かせれば中から潤滑油と精液が垂れていたたまれない気持ちになった。

 宣言通り、ジョセフに動く様子はない。羞恥に耐えてゆっくりと腰を持ち上げると太いところが前立腺に当たってたまらない快感を生み出す。その感覚に耐えるように動きを止めたシーザーに「真面目にやってくんなァい?」と茶化した声が飛んだ。
 くそ、と内心に吐き捨てたシーザーは腹をくくってゆるゆると腰を振る。往復する動きのたびにいいところをかすめて、吐息が押し出されるのはどうしようもなかった。
 抜け落ちそうなほどに体を離し、一番奥まで飲み込む動きを繰り返す。挿入の瞬間に一度勢いを失ったはずのシーザーの性器は、彼の快感を示すようにとっくに張り詰めていた。感じる高揚に汗が肌を濡らす。いつの間にか伸びていたジョセフの手が彼の足の間に触れて息が詰まった。

「っんぁ! や、ン、そこ……」
「気持ちいいんだろ? シーザーもイっとけ、って」
「ひ……っうぁ!」

 弱い先端をなぶられてシーザーの熱が弾ける。ジョセフを飲み込んだままの後ろが収縮するのが自分でもわかって、彼がまた達したのを感じた。
 受け止めきれずに後孔から溢れる精液の感触に眉を寄せる。射精後の余韻に脱力するシーザーの体に構わず、両足を持ち上げられて視界が回転した。抜かれる前に体位が変わり、入ったままの熱に反応してしまう。つられるようにジョセフの性器が固くなったのを察してシーザーの顔から血の気が引いた。

「ってめ、まだ……っ」
「そーそ、おれってばまだぜんぜん足りないンだよねェ。シーザーちゃんが妙な薬なんか盛ってくれるから」

 そう言って笑ったジョセフは、自身の言葉でシーザーの罪悪感が煽られるのを間違いなく理解している。計算ずくの言動だとわかっていても、根が真面目なシーザーは彼の手を払いのけることなどできなかった。シーザーの上に覆いかぶさったまま予告なしに深いところまで穿たれてあられもない声が落ちる。引き抜く動きのたびに注がれた精液がこぼれるのを感じて耳まで熱くなった。

「ぁ……ジョジョ、っん」
「……すげ、中ぐちょぐちょ、きもちい」
「うぁ、音、っひ!」
「音? ……ああ、そういうことね」

 シーザーの切れ切れの声から言葉を拾ったジョセフは、一瞬思案顔を浮かべてから彼の耳元に顔を寄せる。交わる角度が変わって、膨らむ快感を目をきつくつぶってやり過ごした。シーザーが耐えるように顔を背けたのをいいことに、ジョセフは赤く染まる彼の外耳に舌を這わせる。与えられた刺激にシーザーの体が一瞬震えた。
 ジョセフの舌は露骨な音を立ててシーザーの鼓膜を揺らす。不意に耳朶を甘く噛まれる感触すら腰に重く溜まった。わざとらしく舌を抜き差ししながら、その合間に低音で吹きこまれて隠しようもなく体が反応する。

「音だけで想像して感じちゃうんだ? やーらしい」
「っ、違……」
「違わねえっての。後ろ、きゅんきゅんしてるぜ」

 示すように腰を揺らされてシーザーは何も言えない。直接的な刺激でなく、与えられる快感を思い浮かべるだけで反応するようになるなんて、自分の体ながら信じられない思いだった。否定の言葉を口にする前に荒っぽく穿たれて意味のない母音ばかりが唇から漏れる。耳を濡らしていた舌がシーザーの唇と合わさって、こみ上げる愛しさに両手ですがった。

「あ……シーザー、も、出そ」
「んぁ、奥……深い、んっ」
「中に……ん、出るッ」
「――……っあぁ!」

 ジョセフが腰を進めるたびにシーザーの性器が腹に挟まれて跳ねる。一番奥で彼の熱が弾けるのを感じたと同時に腹筋にこすられてシーザーも達した。荒い息をつきながら脱力感に身を委ねるシーザーは、体を埋めていた楔がゆっくりと引きぬかれていくのを感じてそっと安堵を抱いた。

 力なくシーツに横たえていた体をぐるりと反転されて、まどろみの境にあった意識が覚醒する。うつ伏せの状態から腰だけを高くかかげられ、露骨な格好に体が熱くなった。抵抗しようにも力の抜けた四肢ではかなわず、反対に押さえこまれてしまう。顔だけ巡らせてやっと振り向いたシーザーは、ジョセフのぎらついた瞳に射抜かれて目を瞠った。

「――ジョジョ、なにして……」
「なにって、続きよォン。まだぜんぜん満足してないって言ったろ?」

 言いながら、晒された秘部に遠慮無く指を突っ込まれてシーザーの息が詰まる。何度も精を注がれたそこは刺激を求めるようにひくひくと収縮していた。指で内壁を拡げるようにかき回されると濁った液体がこぼれ落ちる。耐えられない羞恥がわき上がって、シーザーはたぐり寄せた枕に顔を埋めた。

「は、やらしい格好。挿れるぜ」
「ぁ、待っ……ひぁっ!」

 言葉と同時に貫かれて白い背が跳ねた。さんざんに精を吐き出したはずのジョセフはまだ高ぶったままで、シーザーの内側を好き勝手にえぐる。その動きが彼の性感帯を的確になぶるのでますます逃げ場がなかった。
 派手な水音とともに律動する動きの合間、うつぶせた体の前にジョセフの手が回って呼吸が引きつれる。熱を孕むそこを手のひら全体でこすりたて、先端の割れ目を強く指で押し込まれてかすれた悲鳴が漏れた。身をよじって逃げようとしても震える手足には力が入らない。いいところばかりを責められ、強制的に高められる感覚にシーザーは恐怖を覚えた。

「ぅあっ、やめ、そこ、触ん……ひぁっ!」
「気持ちいいだろ、嫌がんなっての」

 言ったジョセフはシーザーの体の上に身を伏せ、肌が重なる感触に鼓動が速くなる。至近距離から「シーザーの弱いとこ、全部知ってるんだぜ」とささやかれてめまいにも似た感覚を覚えた。
 以前、ジョセフがシーザーに自白剤を盛ったことがあった。薬が効いている間のシーザーの記憶はあいまいなのだが、ひどく体を貪られた、ような気がする。自白剤というのは問われることに対して素直に答えさせるという性質の薬で、抱かれる間に己の弱いところを告白してしまっていたのだろうか。だとしたらなんて恥ずかしい真似を、と勝手に顔が熱くなる。首筋を伝う汗を舐め取られて、肌を這う舌のその動きにも反応した。

「痛いくらいが感じるって、シーザーが教えてくれたんだぜ」
「ふ、ぁ……や、ンンっ!」

 からかう声で言うジョセフの指が性器を責め立て、性感に内壁がうねるのを自覚する。後ろから好き放題に穿たれているのに文句を言えないほど感じてしまって、彼に作り変えられた体にシーザーは涙を浮かべた。ジョセフの切っ先が奥をえぐる感覚に背筋が粟立つ。許容量を超え、腰から下の感覚はぐちゃぐちゃに混ざり合ってただ性感だけを訴えていた。

「あー……イきそ」
「ひ、っく、早く、イけ……っ」

 耳元で感じ入ったような呟きを漏らすジョセフに、シーザーはほとんど泣き声で返した。押し込まれる彼の熱ばかりを追いかけて、体が過敏になっている自覚はある。ふいに胸の尖りをつままれて喉が反った。指先一つで翻弄される自分を情けなく思う理性は、交わりの中でとっくに吹き飛んでいた。

「一緒に、気持ちよくなろうぜ?」
「――……ッ!」

 そうささやくジョセフの手に立ち上がった性器を痛いほどしぼられる。体の奥底に奔流が注がれるのを感じて、シーザーの視界は白く途切れた。


 のは、一瞬だった。
 意識を飛ばしたシーザーは、うつ伏せで交わったまま体を持ち上げられて思考を現実に引き戻す。とろけた頭が状況を把握する前に深く突き立てられて呼気が漏れた。体をひねればジョセフの胸板に受け止められ、背面座位の格好で抱え込まれていることを知る。視線を落とせば、繰り返した交合のあとで白いシーツが濡れてぐしゃぐしゃになっているのが見えた。
 ジョセフの昂ぶりはいまだ熱を持ってシーザーの体を串刺しにしている。吐き出して勢いをなくした性器を片手で弄ばれてシーザーは泣き声を上げるしかできなかった。性感を通り越して、過ぎた感覚は痛みとして受容される。後ろから首筋に噛み付かれて唇を噛んだ。

「お前、まだ……っ」
「そ、薬が抜けてねえみたいだな。シーザーお兄ちゃんなら、最後まで面倒見てくれるよなァ?」

 悪びれないジョセフの言葉にシーザーは頭痛を覚える。自分が蒔いた種とはいえ、彼に媚薬を盛るなんて考えはあまりにも愚かだったようだ。指の腹で胸の先をなぶられてぞくぞくした感覚が駆ける。彼がシーザーの性感帯を覚えた、というのは嘘ではなさそうだった。
 往生際悪く、逃げ出そうと体をよじってもすぐに後ろから押さえこまれる。もとよりがくがくと揺れる足では動けるはずもなかった。それでもわずかな期待をかけて問いかける。シーザーの声はほとんどかすれていた。

「――さいごまで、って」
「わかんねえけど。とりあえず、朝までコースで頼むぜ」

 言ったジョセフはきっと笑っていたのだろう。熱を深く差し込まれて喘いだシーザーは、朝まで続く受難を思って後悔に頭を抱えたい気持ちだった。
 吐こうとしたため息は揺さぶられて嬌声に変わる。ただれた時間に身を預けながら、せめて用意した媚薬は彼に見つけられる前に処分してしまおうと固く誓うシーザーは明滅する視界に目を閉じた。