そういうミステリー・真相編
「ほーんと、すげえ量だな。こんだけの薬を何に使うわけ」
孤島にそびえ立つリサリサの館は広く、ジョセフが入ったこともない部屋がいくつもある。そのうちの一つである小部屋で、彼の身長を越すほどの棚に詰め込まれた薬品瓶を眺めながらジョセフは素直な疑問の声を上げた。彼の言葉に、この部屋の鍵を持つリサリサが隣で瓶を出し入れしながら答える。以前、シーザーに飲ませるはずだった薬を取り違え、今後の間違いを防ぐため薬品棚の整理を始めようとする彼女にジョセフがついてきたのだった。
「ここにある薬は怪我の治療と、波紋の研究のためのものです。波紋のエネルギーについてはまだ未解明な部分も多いので、薬品の投与によって様々な環境に置き影響を確認しています」
「ふーん、要は人体実験ってわけか。やることがえぐいねー」
「命の危険がある薬品は使いません。軍よりはよほどましでしょう」
さらりと言った師の横顔に動揺はない。生命に支障がない範囲なら強い薬も飲ませる、と示唆された気がしてジョセフは寒気に体が震えた。同時にこんな環境で修行に励んでいたシーザーに思いを馳せ、健気なやつだと改めて見直す。彼の顔を思い浮かべるとそれだけで頬が緩んでしまうのは仕方がなかった。
なにせ、二人はついこの間晴れて恋人同士になったのだった。互いの気持ちを確認する前に体を繋げたのはどちらにとっても予想外ではあったが、結果オーライじゃんとジョセフは考えている。
とはいえ好きだ、とシーザーが言ってくれたのは彼が告白した晩だけで、あれから一週間近く経ったというのに恋人はなかなか甘い言葉をくれない。ベッドの上で再三ねだっても「……言わせんな、スカタン」が精一杯の返事なのだからジョセフとしては不満が溜まる一方である。初対面の最悪に近い印象からこの短期間で恋に落ちてしまって、頭の固いシーザーは処理が追いついていないのだろうと考えてみても物足りないことには変わりない。道行く女性を優しく慰めることはできても、一番大切にしたい本命相手には睦言をささやく事もできないなんて損な性格だと思った。
つれない態度をとるシーザーではあったが、つんけんした言動の裏にジョセフへの恋心がにじんでいるのは隠しようがない。今まで自分から求める恋をしたことがないという彼自身は気づいていないようだったが、不意に甘やかすような仕草を見せるシーザーにジョセフはどうしようもなく鼓動が跳ねる。あとはもうすこし素直になってくれたらなー、と考えるジョセフはわがままな彼氏だった。
黙って薬瓶を動かすリサリサから離れ、ジョセフは部屋全体をあてもなく歩いてみる。部屋自体はそれほど狭くないはずだが、空間を埋め尽くすように並んだ薬品と棚のせいでひどく息苦しく感じられた。
それぞれの瓶に貼られたラベルをなんとはなしに読み流しながら数歩進む。「消毒液」と書かれた瓶がいくつも並んでいて修行の激しさをうかがわせた。隣の棚は一転して小さな瓶ばかりが並び、自然と視線が向かう。彼が読めるのは英語で書かれたラベルだけだが、秩序にもとづいて並べられていることはなんとなく理解できた。
(この棚は精神系のお薬なのかねェ。不眠薬に睡眠薬か、なんか怖ェな。こっちは向精神薬……前、シーザーが飲まされたやつか。その奥は、っと……)
元来好奇心旺盛なジョセフはがちゃがちゃと瓶を動かし、奥に置かれた小さなガラス瓶を手に取った。それは彼の手の中にすっぽり収まってしまいそうなほどのサイズで、使われた形跡もなく液体がいっぱいに満ちている。ラベルにはイタリア語でなにか書かれたあと、走り書きのように英語が続く。自白剤、と読み取ったジョセフは思わずため息をついた。
(なーにが軍よりマシだぁ、自白剤まで用意して、十分えげつねえじゃねえか)
拷問に使うくらいしか想定できなさそうな薬ではあるが、かたく封をされて実際に使用された様子がないのが救いだった。何考えてんのかねえあの女、とリサリサをなじったところで「休憩は終わりです、ジョジョ。修行に戻りなさい」と本人の声が届いて思わず飛び上がった。調子よく返事をしながら乱した瓶の並びをぞんざいに直し慌てて部屋を出る。その左手に件の自白剤が握られていることに気がついたのは歩き出してからだった。
「やべっ、持ってきちまった……あー、今から戻しに行っても怒られそうだよなァ」
いまだ部屋で整理をしているリサリサに鉢合わせるのはとても気まずい。それならあとでこっそり戻しておこう、と決めてジョセフはひとまず自室に向かった。棚の奥にしまわれた小さな瓶などなくなったところで気づくまい、いや使った様子もないのだから存在すら忘れられているかもしれない。
楽天的に考えたそのときは、自分がこの瓶の封を開けるとは思いもしなかった。
★☆★☆★
「シーザーちゃーん!」
「……繰り返すようだがな、ノックしたあとは返事を待ってからドアを開けろ」
その日の夜、食事を終え自室に戻ったシーザーのもとを訪れたのは言うまでもなくジョセフだった。形ばかりのノックのあと部屋に飛び込んでくる彼に文句を言うシーザーの目元がやわらかいことに気づかないジョセフではない。その右手に乗った小さなトレイを見てシーザーの眉が上がった。
「なんだ、それ」
「特製エスプレッソだぜ! コーヒーがお好きなシーザーちゃんのために淹れさせていただきましたァン」
「なんだ、ジョジョが淹れたのか? まずそうだな」
「にゃにぃ〜、ちゃんとスージーQにやり方教わったんだからな」
言いながらジョセフは大股で部屋を進み、中央に据えられたテーブルの上にトレイを置いた。スージーQの趣味であろうかわいらしいデザインのそれにはデミタスカップがちょこんと二つ乗っており、黒々とした液体が香ばしい匂いを放っている。
そのうちの一つを「ドーゾ」と笑顔で渡され、シーザーは検分するように眺め回してから口をつけた。目を閉じて味わうように小さなカップを傾けるシーザーにジョセフの期待に満ちた視線が注がれる。一瞬の沈黙ののち、シーザーが言った。
「……まずい」
「エー!? そりゃないぜシーザーちゃん、ここは『おれのために用意してくれたお前の気持ちが嬉しいぜ、ジョジョ……』とかそういう展開だろォ!?」
「うるせえな、ほんとにまずいんだよ。普段コーヒーより紅茶派のお前がまともなもの淹れられると期待したおれが馬鹿だった」
無言のうちにお前も飲め、と示されてジョセフは残ったカップを手に取る。おそるおそる口に含んでから「苦っ」と悲鳴を上げ慌ててカップを戻した。もともとコーヒー、とくに濃くて苦いだけのエスプレッソの旨さがわからないジョセフであるから、自分が淹れたこれが特別まずいのかどうかはわからない。しかし毎日のようにコーヒーを飲むシーザーが言うのだから、彼の評価が本当なのだろうと思えた。
自分の試みが失敗に終わったことを悟りジョセフの背が丸まる。意気消沈したように肩を落とす彼の姿がなぜか大型犬にだぶって、シーザーは浮かぶ笑いをかみ殺した。彼の豊かなブルネットをくしゃりとかき回してからカップに残った液体を飲み干す。ジョセフに見つめられていることを感じ、手にした陶器をテーブルにおいてから彼の方に向き直り「おれにうまいって言わせたきゃ毎日練習するんだな」と笑った。
まずいと切り捨てながらもジョセフが用意したものならまた飲んでやる、と言われてジョセフは頬がゆるむのをこらえられない。衝動のままにシーザーをベッドに押し倒すと予想外だったのか、抵抗もなくあっさりとシーツに沈んだ。
「ってめ、いきなりなにしやが……ンぅ、む!」
上がりかけた罵声と拳をキスで封じ込める。圧しかかられた状態では満足な抵抗もできず、諦めたようにシーザーの手が落ちた。押し返す動きが止んだのをいいことに、ジョセフは思うさま彼の口内を荒らしまわる。下手くそだの荒っぽいだのいまだにシーザーには文句を言われるが、そんな彼自身がジョセフの未熟なくちづけが好きなのだからどうしようもない。今もマウントポジションを取られたまま乱暴に舌を吸われ、シーザーのまつげが細かくふるえる。ねちっこいキスを堪能したあと唇を離して至近距離から瞳をのぞきこむと、シーザーのペリドットは熱にとろけていた。
よし、とジョセフは心のなかで大きく頷く。これならいけるかもしれない。確かめるために「シーザー」と思い切り甘い声で名前を読んだ。
「シーザー、おれのこと好き?」
いつもなら「このスカタン」だの「言わなきゃわからないのか」だのとはぐらかされる質問である。何度も繰り返したやり取りにシーザーのあきれたような視線が向けられて、けれど落ちた言葉は予想外のものだった。
「……ああ、好きだぜ」
言ってシーザーはその淡い瞳を大きく見開いた。言うつもりのなかった台詞がぽろりとこぼれて、意思とは裏腹な舌に違和感を覚える。その言葉が予想外だったのは言った本人だけで、思い通りの展開にジョセフは嬉しそうに自分の下の体を抱きしめる。重たいと不満を上げる声はさっぱり無視した。
「じゃあさー、おれのどこが好き?」
「言わせんな。海みたいな色の瞳がきらきらして好きだし、唇もセクシーだし、眉が凛々しくて男らしいな。でかいなりして甘えたなところも……っ、おい!」
常なら決して言わない睦言に恥ずかしくなったのか、シーザーは言葉の途中で顔をすり寄せるジョセフの顎を掴んで押しのけた。屈強な二人の力比べにぎぎぎ、と関節が軋む音が聞こえた気がする。たまらず体を離したジョセフが目を落とせば、不機嫌そうに眉を寄せるシーザーの頬は常より血色がいい。「素直なシーザーちゃんかーわいいー」とジョセフが思ったままを口にすると冷たい視線が刺さった。
「……クソッ、こんなこと言うつもりじゃなかったのに」
「えー、いいじゃん。シーザーの本心なんだろォ?」
そう言って心底嬉しそうに笑うジョセフにシーザーはなぜか警戒心を抱いた。いつもはなかなか口に出せない言葉が自分でも意図しないままこぼれたことに不快と疑問の念が浮かぶが、それらが明確な形を取る前にわき腹を撫で上げられて意識が引き戻される。おい、と口にする前にベルトを抜き取られてシーザーはあっけにとられるしかなかった。ジョセフの手は時々魔法かと思うほど器用に動く。こちらの都合などお構いなしに事を進めるジョセフにも身を任せるくらいには惚れていた。
「……ジョジョ、電気消せ」
それでも点いたままの照明が気になって、照れを隠すためにもぶっきらぼうな口調で言う。シーザーのボトムに手をかけていたジョセフは心底不思議そうに顔を上げた。
「別に点いててもいいだろォ? 心配しなくてもきれいだぜ、シーザーちゃん」
「ばっ……! ハッ、そんな甘い台詞お前にゃ似合わねえよ」
「そーんなこと言っちゃってェ、ほんとは嬉しいんだろ〜?」
「嬉しくないわけじゃあないが……、ッ!」
ぽろりとこぼれた本音にシーザーは慌てて両手で口を覆う。その言葉はたしかにジョセフの耳に届いたようで、彼はニンマリと口角を上げた。
自分の口をふさぐのに両手を使っているシーザーを剥くのはたやすく、下着を下ろされ肌に外気が触れる感触に息を詰める音が聞こえる。露出した性器に躊躇なく指を絡めてしごくとそこはたちまち熱を持って張り詰めた。目の前の光景に喉が渇くような興奮を覚えつつ、ジョセフは彼の快感を探るように慎重な手つきで全体をなぞり緩慢な刺激を繰り返す。は、は、とシーザーの指の隙間から漏れる呼吸をすくいあげるように顔を近づけ、「シーザーのいいとこってどこ?」と直接に問いかけると彼の眉が上がった。
「ど、こ……って、っあ」
「こことか? ここは? 気持ちいい?」
「んぁっ! ふ、あ……きもち、い」
くびれたところを指の腹でこするとシーザーの体が跳ねた。きもちいい、と訴える声に愛撫する動きは大胆になり、先端を手のひらでこすると高い声が上がる。ぐり、と割れ目に指を立ててもシーザーの声は甘いばかりで嫌がるそぶりもない。「ここ好き?」とからかうつもりで口にしたのに、返ってきた言葉にジョセフは顔が熱くなるのを感じた。
「ぁ、好き……それ、イイ……っ」
「……痛くねえの?」
「は……ぁひっ、痛くて……きもち、ああっ」
芯からとろけきった声に鼓膜を揺さぶられ、ジョセフは頭を抱えたくなる衝動に駆られる。
シーザーに自白剤を盛る、というのはいたずらの延長のような思いつきだった。疑いを抱かせず、しかも薬の存在に気づかれないよう飲ませるためにエスプレッソを選んだのは彼の頭脳の冴えによるもので、目論見通り疑問もなくカップを口に運んだシーザーに内心ほくそえんだものだが、思ったままを口にするシーザーを前にしてノックアウト寸前だった。
どんな恥ずかしいことを言わせようか、と考えていたはずなのに、目の前の彼から落ちる言葉のほうがよっぽど破壊力がある。調子乗らせてくれねえな、と内心に呟いて責める動きを容赦のないものに変えると彼の性器がジョセフの手の中でびくびくと震えた。幹をしごく動きのついでに、彼が好きだと言っていた先端をくじるように指を動かすと甘い声が上がる。意思を持って口を覆っていたはずのシーザーの手からはすっかり力が抜け、添えるように顔の上に乗るだけだった。
「あっ、ふあ、ジョジョぉ……」
「イキそう? イくときはちゃーんと言わなきゃだめだぜ」
「い、あぁっ、も、イく、あ……イくっ!」
悲痛にも聞こえる叫びとともにシーザーの体が震え、同時に白濁が噴き出す。達した後も残滓すらしぼりとるようにしごく動きを続けると切れ切れの母音が聞こえ、彼の開いた唇からだらしなく唾液が伝うのを見てジョセフは自身が張り詰めるのを感じた。
己の熱で濡れたシーザーの腹筋から精液を右手ですくい取る。その動きに予期したのだろう、自ら足を広げるシーザーにたまらないいとおしさがこみ上げた。奥まったところに触れ、指に絡ませた精液でぐるりと濡らしてからわずかに指先を埋める。反射的に息を詰めるシーザーの両手を優しく払い、触れるだけのキスを落とすと熱い舌に求められてジョセフは思わず目を開いた。
自白剤とは一時的に思考能力を奪う薬であり、理性の箍が外れることはそれだけ本能に素直になることを意味する。先ほど飲ませた薬が回ってきたのだろう、とろけた表情を浮かべるシーザーは記憶にあるよりもずっと快感に貪欲だった。
水音を立てながら情熱的なキスに耽り、性急な舌の動きに急かされるように指を沈める。割り開かれる感覚から逃げるようにシーザーは彼の口内を貪り、明るいままの部屋に荒い息づかいと粘った音が響いた。
三本目の指を挿れたところでわずかに体を起こすと舌をつきだしたままのシーザーに見つめられ、ジョセフは湧きあがる衝動を殺すのに精一杯だった。彼の体内に差し込んだまま手首をひねると派手な嬌声が上がる。その反応に満足して、指を引き抜きながら「たまにはおねだりしてみてよ」と耳元でささやくと呆けたような声が返った。
「おねだ、り……?」
「ジョジョのおっきいの挿れてェ、とかさ。ほら、早く」
自白剤を飲んだ相手には、考える隙もなく要求するのが効く。なにかで読んだ知識を生かして意地悪な声音で言えば二度まばたいたあとシーザーの片手がのろのろと動き、自らの膝裏に差し込まれる。そのまま立てた足を大きく開き、蹂躙を待ってひくつくところを照明に晒して、熱に浮かされたような瞳で言った。
「も、焦らすな……早く、挿れてくれ」
自分が唾を飲む音をジョセフは遠くで聞いた。もっと焦らしてやりたい、と浮かぶ考えを無視して彼の腰を掴み、望まれるままに穿つ。加減もなく挿入されてシーザーの背がきれいにしなり、喉からは押し潰されたような声が漏れた。かすれた悲鳴を上げるのを自覚しながら、シーザーは己の口を閉じることもできない。ひきつれる呼吸に構わず唇をキスで塞がれ、重い思考がますます沈む気がした。
「あひ、ッふ……ジョジョ、や、まだ動く、な……っ!」
「シーザーのいいとこ、ここだろ?」
「あぁっ、やだ、ひ、あん、そこ、やめ……っ!」
熱い締め付けに逆らうようにジョセフが律動を始めると途端に制止の声が上がった。何度も行為を重ね、すっかり覚えてしまった前立腺を突き上げるように腰を使うと悲鳴が漏れる。
いつもならどんなにシーザーが嫌がったところで言葉だけだからと無視して事を進めるが、自白剤を盛った状態での拒絶はポーズではなく本心であることに思い至り苛む動きを止めた。目に涙を浮かべた彼の目尻は赤く、それだけで腰が重くなる。ひょっとして嫌だったのだろうかと、強い刺激から解放されて荒い息を吐くシーザーにおそるおそる問いかけた。
「シーザー、こうされるの、嫌?」
「ァ、いや、だ……やめ、も……」
示すように一度だけ突くと大きく首を振られ、相変わらず拒絶の言葉が返る。いやがる顔もたまらなくそそる、とは胸中に浮かべるだけにとどめた。
夜を重ねるごとに彼を観察したジョセフから見ればそこはシーザーの弱点であり、現に今も突かれる度に彼を受け入れる内壁はきゅうきゅうと反応する。確かに性感帯であるはずなのに嫌がられて納得出来ないジョセフは重ねて問うた。シーザーの顔はそむけられて表情はうかがえない。
「……感じない、とか?」
「ちが、ぁ……っふ、気持ち、よすぎて……おかしくな、る」
言い終えたシーザーは目を大きく開き、首を勢い良く動かしてジョセフを正面から見据えた。体に埋め込まれたジョセフの熱が大きくなったのを感じたからであり、その瞳には「なんで」と疑問が浮かんでいる。
シーザーはときどき、健全な男子が反応するポイントを知らないのではないかと思う。そんな殺し文句をささやかれてはジョセフの興奮が膨らむのも無理ない話で、内心に自己弁護を重ねながら予告なしに深く突き立てた。
裏返った悲鳴とともに逃げを打つ体を組み敷き、彼が嫌がるほど感じるという箇所めがけて遠慮なく穿つ。すがるものを探したシーザーの両手がジョセフの首に回り、彼の耳元で甘い声が何度も落ちた。
「んあっ、ジョジョ、は、ひ……!」
「中、すご……とろっとろ」
「ひぅっ、や、言うなァ……ッ」
涙を浮かべる目尻に舌を這わせ、指先で胸の尖りを転がすとシーザーの体が震える。ジョセフは露骨に反応を返す内壁に満足気な笑みを浮かべ、制止するように絡まる彼の腕を剥がして胸元に唇を寄せてきつく吸い上げた。
そのままの体勢で見上げればシーザーは唇を噛んで耐えているが、刺激をもたらされる度にジョセフの熱をしぼりあげるのは否定できない。「シーザーちゃん、乳首弱いよねェ」とからかうように口にすると「……うる、せ」とそっぽを向かれた。
「そんなこと言って、感じるんだろ?」
「あ、ぅ……ふ、きもち、いい」
自白剤が最大の効果を発揮するのはイエスかノーで答えられる質問である。そう思いだしたジョセフが重ねて言えば素直な言葉が返った。なにかを思いついたジョセフは彼の白い肌をなであげ、指先でわき腹をくすぐる。一瞬息を詰めたシーザーに意地の悪い質問を投げれば、観念したように性感帯であることを認めた。
上機嫌になった彼はシーザーの赤い耳朶に顔を寄せ、いきなり舌を差し込む。間の抜けた声が上がって、同時に挿入したままの性器がきゅうと食い締められ快感にジョセフの眉が寄った。そのまま複雑な内耳をぐちゅぐちゅと音を立ててなぶってやれば、周りくどい刺激に焦れたのだろう、甘い声を漏らしながらシーザーは手を伸ばし自身の熱に触れる。男に抱かれながら自らを慰める彼の卑猥な姿にジョセフの顔から笑みが消え、喉が勝手に動いた。
閉じることを忘れたようなシーザーの唇からは喘ぎ声がもれっぱなしで、震える指先は丁寧な愛撫などできないと見え単調な動きで幹を扱き上げる。性感に波打つ内壁に耐えられないジョセフが腰を動かすと彼の背が反った。
引きつれたように痙攣する内腿に限界が近いことを知り、シーザーの腰を掴んで抽送を繰り返す。すがるようにうねるそこからゆっくりと引きぬき、勢いをつけて深く差し込む。彼の淡い瞳に膜を張っていた涙が雫となり幾筋も濡れた跡を残していた。
「ふあ、ぁんっ! ジョジョ……も、ぁあ、イく……っ」
「おれ、も、限界……中に出す、からなっ」
「あ、ぁひ、んあっ! イ、くぅ!」
「……ッ、く!」
鈴口に指を立てると、その刺激に耐え切れなくなったのだろうシーザーが背をしならせて達した。締め付けられる感触にジョセフもたまらない快感を得て奔流を彼の体内に注ぐ。
ひくひくと揺れる彼の晒された喉にキスを落とし、抜こうとしたジョセフは腕を掴まれて視線を上げる。力の入らない手を伸ばしたシーザーの瞳はすっかり熟れ、染まった目尻が露骨に誘っていた。解放された熱が再燃しそうなほどセクシーな彼の表情にジョセフの鼓動は跳ねる。かすれた声で呟かれた言葉は正確に彼の心臓を撃ちぬいた。
「……もっと、ほしい……」
自白剤を飲ませて翻弄するつもりが、これではまるで逆だと内心に白旗を上げた。ぼんやりと彼を見上げるシーザーの視線はとろけ、薬に理性的な思考が奪われていることをうかがわせる。
そんな彼に誘われてもちろんジョセフに否やはなく、足りないと二度と言わせないほどに愛してその夜は更けた。
★☆★☆★
ジョセフが瞬間に感じたのは浮遊感だった。意識が覚醒し切る前にそれは落下感へと変わり、ゴツリと硬い床に頭をぶつけて目が覚める。
いきなりのことにクラクラする頭を抱えてあたりを見回せば、床に座り込む自分と目の前に仁王立ちするシーザーを見つけた。窓から差し込む光は弱く、朝になっても寝ている自分を彼がベッドから蹴り落としたのだと想像がつく。あからさまに感じる怒気に内心冷や汗をたらしながら「オ、オハヨウゴザイマス」とぎこちなく言うと、返ってきたのは意外にもやさしい笑みだった。
「おはよう、ジョジョ。ゆうべはずいぶんお楽しみだったようだが、てめえおれに何しやがった?」
表情も口調も穏やかだが、言葉の端々から隠し切れない怒りが伝わる。そりゃ気づくか、と内心で舌を出したジョセフはシーザーが波紋の呼吸を始めていることを知り顔面を蒼白に変える。シーザーはきちんと服を着ているがジョセフは下着一枚の姿で、隔てるものもなくシャボンランチャーを食らってはたまったものではない。もはやごまかせるレベルにないことを悟って素直に吐くことにした。
「エート……その、自白剤をちょこっと」
「自白剤?」
「偶然見つけてよォ、これならシーザーちゃんも素直になってくれるかなァーって……つい」
「……」
シーザーの無言の圧力に負けてジョセフの声はどんどん小さくなる。彼の顔を見ることもできずにジョセフの視線は床を這った。落ちた沈黙に耐え切れなくなった彼がなにごとか言いかけると、シーザーの小さな呟きが耳に届く。え、と聞き返せば複雑そうな表情の彼がもう一度口を開いた。
「……普段のおれじゃ不満か、と言ったんだ」
「は?」
「わざわざ薬を盛るってのはそういうことだろう。……素直じゃなくて悪かったな」
ジョセフがぽかんと見上げればシーザーはふいと顔をそむけてしまった。自白剤を飲ませたことに激怒されると思っていたのに、彼の思考のベクトルは怒りよりも不安に向かうらしい。予想外の展開に目をしばたかせたジョセフは、じわじわとその表情を緩んだものに変えた。
「もっちろん、いつものシーザーちゃんも好きだぜ?」
「適当なことを言うな、だったら自白剤なんて飲ませないだろう」
「ほんとだってェ。……シーザーもおれのこと、好きだろ?」
立ち上がったジョセフが彼の前に回り込み、のぞき込むように問いかけると視線が揺れた。常ならはぐらかされ、昨晩は素直な答えを引き出した問いかけである。
どう答えるべきかと逡巡するように沈黙するシーザーだったが、ジョセフの瞳に期待がきらめいているのを見て浅くため息をついた。「今日だけだからな」と釘を差して「……好きだ」と口にする。途端にジョセフが飛びつけば抵抗にあうが、顔を掴む指を舐めわき腹に手を這わせると途端にシーザーの体から力が抜けた。
一晩かけて彼の弱点を探りつくしたジョセフは性格の悪い笑みを浮かべるだけだ。不利を悟ったシーザーが逃げ出そうとするのを見逃さず、勢いを利用してベッドに倒れ込みシーツに縫い付けてしまう。早朝から起こしてくれたおかげで師範代たちが呼びに来る時間まではまだ間がある。
のしかかったままでジョセフが「好きだぜ」と言うと、その返事は熱いキスとなって返ってきた。
その後、二人の間で、
「なあシーザー、おめー昨日おれの好きなところ言ってくれたじゃん?」
「……勘違いするんじゃねえ、言わされただけだ」
「なんでもいいけどよォ。あれ、おれの見た目についてしか言ってなかったよな」
「……」
「シーザーちゃんにとっておれの魅力って顔だけなわけェ? あー、ジョセフくん傷ついちゃうなあー」
「……お前のいいところは、おれだけが知ってればいいんだ」
「……っ! おめーはほんと、ずりーっての!」
「うるせえスカタンさっさと風呂連れてけ!」
というやりとりが交わされたとかなんとか。
一般に、自白剤って注射して投与するものらしいですね(白目)