アイオライト幻夜
「シー……あれ、寝てんの」
歯磨きを済ませ、忌々しい呼吸矯正マスクを着けてもらいに兄弟子の部屋を訪れたジョセフはきょとんと呟いた。
大きなサイズのベッドの上に横向きに寝そべるシーザーの胸はゆったりと上下し、おだやかな眠りのなかにいることを示している。枕に頭を乗せる代わりにタオルが顔の近くに落ちており、風呂に入ったあとつい睡魔に負けて横になったのだろう。そんな風にうたた寝しているくせ、部屋着ではあるが着崩すことなくきっちりと着込んでいるのが彼の真面目さをうかがわせていた。
ノックの返事がなければ眠っているのだろうと見当をつけられたが、ジョセフは返事を待たずドアを開けるのが常なので部屋に入るまで気づかなかった。ついでに構ってもらおうと楽しみにしていた彼はあてが外れて途端につまらなそうな顔をする。
なんだよー、と聞こえない文句を口にしながらシーザーが顔を向ける方に腰掛けた。体重が乗せられてベッドのスプリングが軋むが金色のまつげはぴくりとも動かない。
今日の修行もきつかったしなあと呟いたジョセフは彼を起こすことはやめ、手持ち無沙汰に金属のマスクを指でくるくると回した。
修行がハードすぎると不満をこぼすジョセフであるが、波紋使いとして一日の長がある兄弟子はさらに過酷なノルマを課せられていることも知っている。ジョセフがわずかな休憩をもらっているときもシーザーは体を休めることもなく、なのに不平を漏らすこともない彼を気遣うくらいの思いやりは持ち合わせていた。その割にはベッドの上では加減ができないのでシーザーには露骨にあてこすられるのだが。
そういえば、こんな風におだやかに眠る彼を見るのは初めてかもしれない。ジョセフはマスクをサイドテーブルに追いやりながらそう考えた。同じベッドで眠ることはあってもたいてい泣かせてしまうし、汗と涙と涎でぐしゃぐしゃに汚れ気絶するように意識を失うシーザーの寝顔はお世辞にも安らかとはいえない。朝だっていつも彼のほうが早く目覚めるので、ジョセフはシーザーがどんな風に眠るのか知らないと言ってよかった。
意志の強い眉も今はゆるめられ、光を失わない瞳は瞼の向こうに隠れている。無骨な造りの男の体でもやわらかさを宿す頬をつつくと嫌がるように体が動いた。眠りの邪魔をしてしまったかと一瞬ジョセフは動きを止めるが、仰向けに転がったシーザーはかすかな寝息を繰り返している。
「……そーんな油断しちゃって、狼さんに襲われても知らねえぜ〜?」
安心しきったように力を抜いた体に少しばかりの悪戯心が芽生えて、呟いたジョセフは体重をかけないように気をつけながら覆いかぶさりそっとキスをする。起こしてしまうか、と危惧しながらうかがうが目覚めた様子はなく、かわりにもっととねだるかのように唇がぱかりと開いた。
覗いた舌と粘膜の赤さは性的な連想を呼び起こすに十分で、なにより好きな相手と二人きりでベッドの上というシチュエーションがよろしくない。むらむらと湧きあがる性欲にジョセフは白旗を上げ、多少の罪悪感を感じながら彼のシャツに手をかけた。
そろそろとまくり上げて肌を露出させ、あらわになった乳首に顔を寄せてくちづける。触れるだけの接触を繰り返し、それから舌を伸ばしてぺろりと舐め上げた。鼻にかかった吐息が聞こえるのを無視して、舐めるうちに固くしこったそこを今度は吸い上げるように刺激する。同時に反対側の突起も指先でひっかいてやった。
あからさまに体が震えたが反応はそれだけで、愛撫をほどこしているのに起きる様子のないシーザーにジョセフは身勝手な不満を覚える。彼を起こしたいのかそうでないのか、もはやわからなくなりながらシーザーのボトムに手を伸ばし手際よく脱がせた。
肌を晒すのに抵抗されないことは初めてで、脱がせるために曲げさせた足を掴んで大きく広げると露骨な光景に目眩がする。照明の下に白い肌はよく映え、足の間で性器がゆるく頭をもたげているのが見えた。
誘われるように手を伸ばし、多少慎重な手つきで握りこんで上下に擦ってやる。意識は眠りに沈んでも体は素直に反応するようで、与えられた刺激にジョセフの手の中で張り詰めていくのがわかった。
「……んん……」
不意に掠れ声が聞こえてジョセフは凍りつく。息すらひそめて気配を殺すが、シーザーは感じ入った吐息を漏らすだけでまだ眠りの中にあるようだった。
与えられた刺激が痛みや苦しみならばすぐに目覚めるだろうが、快感では人はなかなか起きないのかもしれない。警戒もせずこれだけ深い眠りに落ちていることは、彼がジョセフの体温に気を許している証拠でもあるのだろう。
寝たままのシーザーをつまらなく思っていたジョセフの思考はぐるりと反転し、彼を起こさずにどこまで事を進められるだろうとゲームのように考えた。達してしまえばさすがに目が覚めるだろうか、その前に起きてしまうだろうか。どちらにせよ、抵抗もなくシーザーの体を堪能できるこの機会を逃すつもりはない。その表情を意地悪なものに変えてジョセフは声もなく笑んだ。
シーザーの膝を両手で改めて掴み大きく割り開かせる。ゆるく熱を持つ性器と、その奥で息づく窄まりを照明に晒してそっと顔を寄せた。ふわりと香った石鹸の匂いに、そういえば風呂あがりなんだっけ、と思い返してまるでこうされるのを待っていたかのようなタイミングの良さに笑みがこみあげる。太もものきわどい部分にキスを落としてから会陰をなぞり、後孔に舌を這わせた。
シーザーの意識がある間はひどく嫌がられるので、舌で慣らしたことは今までない。抵抗されない今がそのチャンスとばかりにたっぷりの唾液を乗せて襞の一つ一つを辿り、尖らせた先端で内側を探る。彼の嫌がる顔にはゾクゾクするものがあるのだが、それを見られないのは少し残念だと考えてしまった。
十分に濡らしたことを確認し、唾液に光るそこに指をあてがい軽く力を入れるとつぷりと埋まる。眠っているからか、普段よりも体温が高く内部も熱く感じられる。根元まで深く飲み込ませ、もう片方の手で熱を持つ性器に触れると内壁が収縮するのがわかった。
毎日のように受け入れさせられているそこは本人の意識がないままでもジョセフの指に反応し、彼の侵入を貪欲に求める。強すぎる快感で目覚めてしまわないようわざと性感帯に触れずに後孔を慣らしていたジョセフは、ン、ンン、とため息のように漏らして身をよじるシーザーに、これ以上我慢できないと荒っぽく指を引き抜いた。じゅ、と濡れた音が立って、埋めるものを求めるようにひくひくと収縮するそこに己の性器をあてがう。シーザーの腰を掴んでわずかに息を詰めた。
★☆★☆★
シーザーがはじめに感じたのは肌を舐める寒さと熱だった。ふわふわと夢と現実の間を浮き沈みする意識はどちらに落ち着くか決めかねているようで、一瞬間に空想と実際を行き来する。理由もわからない快感に体をひたし、このまま浅い眠りに身を投げてしまいたいと思っていたシーザーは体を割り開かれる感触に覚醒した。
異物を飲み込むぞわりとした感覚に目を開けば、定まらない視界の中に見慣れた男が映る。「じょじょ、」とかすれた声でつぶやくと彼は驚いたようにこちらを見つめ、それからにやりと笑った。
「あらら、起きちゃったァン? ま、寝てるままじゃ張り合いないもんな」
「なに……っ、え?」
「ほら、挿れるぜ」
「ぅあ、そん、入るわけ……ぁあっ!」
言葉と同時に押しこまれてシーザーは悲鳴を上げた。
宙に浮いた両足の爪先がぴんと伸び、声帯を震わせない空気が口から吐き出される。挿入の衝撃に背をしならせ、口もきけずはくはくと唇を動かすだけの彼にジョセフは口角を上げた。
「シーザーの中、すっげえ熱い。寝てると体温上がるって子どもみたい、かーわいい」
「ひん、ぁ……なん、でっ」
目が覚めると同時に体を開かれ、シーザーの思考は振り切れそうだった。
よく見れば、シャツが胸元までまくりあげられたうえ下肢には何もまとっておらず、覚えのない性感に自身の性器は張り詰めている。意識はまだ眠りをひきずっているのに体ばかりが用意万端に整えられ、ジョセフの熱を貪欲に求めていた。
わけがわからないまま強い刺激を与えられて、せめてもの抵抗を試みるも目が覚めたばかりの体ではろくに力も入らない。皓々と灯る照明の下で足を開いていることに羞恥を覚え、その感覚が内壁の収縮を生んだことを自覚する。
男同士の性交には準備が必要だというのに、慣らされた覚えもないシーザーの体は素直にジョセフを飲み込み、混乱する意識とは裏腹に快感を追いかけてすがる。寝起きのとろけた頭に強烈な性感をたたきこまれて、従順な反応を示す体に思考がついていけない。なんで、と覚醒しない声でもう一度呟くと答えが落ちてきた。
「わけわかんないって顔してんな? ダイジョーブ、シーザーちゃんが寝てる間にちゃーんと慣らしといたから心配いらないヨン」
「この、スカタ……っあぁ!」
とんでもないことを言われて罵声を上げる前に深く穿たれ、シーザーの言葉は嬌声に変わる。嵩の張ったところで浅くえぐられると勝手に力が抜けていった。
「く、ぁ……っふ、んぅっ! そこ、やめ……」
「ン〜ここ? シーザーちゃん好きだもんねェ〜」
「やぁっ、ひぁん!」
強烈な刺激で睡魔は吹き飛んだものの、外界を認識する前に蕩かされて頭と体が噛み合わない。情けない声が漏れるのを唇を噛んで押しとどめようとしても、乱れる呼吸に酸素を取り込むのが精一杯だった。与えられる性感を散らそうと頭を振ると、湿った髪がシーツに広がって音を立てる。かぶりを振るシーザーの動きを不満に思ったのか、ジョセフの唇が尖った。
「なに嫌がってんの、いつもしてるじゃん」
「ばか、こんな……っ、嫌がるに決まってんだろ!」
有無を言わさず、目を開けた瞬間から抱かれて乗り気になれるわけがない。じわりと浮かんだ涙を乗せて睨みつけてもジョセフの顔はだらしなくゆるんだままで、その手が足の間に伸びてきて思わず肩を揺らした。
「ひ、ぅっ……」
「そーんなこと言ってもこっちは喜んでるみたいだけどなァ〜?」
揶揄するように握り込まれて吐息が漏れる。彼に指摘されるまでもなく体が熱を持っていることはわかっていて、ゆるく手を動かされるたびに濡れた音が響いた。おそるおそる視線を落としたシーザーは、張り詰めた自身がジョセフの手の中で涎をこぼしているところを視界に収めて泣きたくなる。合意でもないのにその気にさせられているのがたまらなくくやしかった。
「ぁ、てめえの……っふ、せいだろ!」
乱れる息の下から言うとジョセフの唇がニンマリと持ち上がる。「そ、だからァ」と笑ったジョセフは幹をしごく手を休めないまま抽送を再開させて、弱いところを同時に責められるシーザーの背がしなった。
「んぁ、ひんっ!」
「寝込み襲って悪いと思ってるんだぜ? その分ちゃーんと気持ちよくしてやるよ」
「ぅ、勝手、な……あァッ!」
反論しようと口を開いた途端に前立腺をえぐられて、シーザーの体が勝手に跳ねる。わざとやってやがる、と胸の内で恨んでみても、駆けのぼるような快感に脳が焼けた。自身の内壁がきゅうと締めつけるのをはっきり感じる。受け入れることに慣らされた体は、ジョセフの熱に割り開かれる感触を確かに快感だと捉えていた。
背筋が粟立つような感覚に急かされ、シーザーは重い舌を必死に動かす。
「ぁ、ジョジョ……んぅ、もう、出……」
「イっちゃう?」
からかいを含んだ問いだと知っていながらシーザーは子どものようにこくこくと頭を振る。つぶった瞼に視界はないが、その姿にジョセフが舌なめずりをしただろうことは今までの経験からわかっていた。彼の獰猛な瞳を思い浮かべるだけで体温が上がる。熱を一番奥まで突き立てられてシーザーの唇から呼気が漏れた。
「イって、いいぜっ」
「……ひ、ああぁっ!」
同時に先端をくじられてシーザーは達した。精液が己の腹に水たまりを作る。体の深いところではじける熱を感じてぞわぞわとした感覚が駆けた。
きつく目をつぶっていたせいで、瞼を開いても視界がにじんだ。ぶれた世界にジョセフが映り、その手がシーザーの頬を撫でるのに目を細める。達したおかげで、自分の姿を猫みたいだな、と冷静に評するくらいの余裕はできていた。
太い栓が体から抜かれる感触に太ももが震える。絶頂を味わった体は敏感になっていて、わずかな刺激でもシーザーの鼓動を跳ねさせた。性器がずるずると去るのにあわせて粘ついた液体が彼の奥からこぼれる。たまらない羞恥に思わず顔を背けた。
腹に溜まった液体が肌を伝う、その感触すら過敏に追いかけてしまう。先端が抜け落ちる瞬間に気の抜けた声が漏れたのは聞こえていなければいいと思った。
「どぉ、気持ちよかったデショ」
「……ざけんな、強姦魔」
「オーノー、そりゃあないぜ! シーザーちゃんもアンアン言ってたし、合意だろォ〜」
「今度てめえに辞書をプレゼントしてやるよ、このスカタン!」
怒声を張り上げてみても掠れ声ではまったく迫力がない。寝起きに声を上げさせられてシーザーの声帯はいささかの疲労を訴えていた。
ふてくされたように横を向くと背中でベッドが軋んで、シーザーの顔に影が落ちる。目尻にキスされ、思わず振り向くとにやけた笑みを浮かべるジョセフと目が合った。
「気持ちよかった、だろ?」
「………………まあな」
こうも嬉しそうに言われては毒気が抜けるというものだ。ジョセフは自分の顔がどんな風に相手に映るかをよく心得ている。なによりシーザーは彼に盲目であったから、悔しいかな、いくら無体を働かれたって結局許さざるをえなかった。
先ほどより色を増した頬を見られたくなくて、シーザーはシーツに顔を押し付ける。くそ、かわいいやつだ、と口にするかわりに胸の内で吐き捨てた。
★☆★☆★
ジョセフから顔を背けるように寝返りを打ったシーザーは白い背中を晒している。ぶしつけな視線を穴があきそうなほど投げながら、どうしてこう考えなしなのかね、とほとんど感嘆にも近い思いでジョセフは手を伸ばした。
丸みを帯びた尻を片手に押し上げると目に見えて体がこわばる。抵抗が本格的に始まる前に、と背に押しかかってうつぶせの体勢にさせた。
当然のように噛み付く言葉が降ってくるが、抵抗できないとわかっていれば聞き流すだけで足る。自分よりも体格のいい男にのしかかられて、常ならまだしも、寝ぼけたままでしかも絶頂の余韻に脱力していればシーザーがジョセフを引き剥がすことなどできるはずがない。その証拠に、膝を立たせて腰を持ち上げても彼は身を震わせるだけだった。
「……ジョジョ、おい」
露骨な格好にジョセフの意図が透けたのだろう、シーザーの声にとげが混じった。その言葉の冷たさは意に介さず、突き出した格好の尻を割り開く。
白濁にまみれて濡れる穴は収縮を繰り返し、ふちが赤く染まっているのが色素の薄い肌の中で扇情的に映えた。親指で押し広げると赤い粘膜がのぞく。羞恥に耐えかねてか、もがく足は体重をかけて封じ込めた。
「てめ、なにして、っの、どけっ!」
「寝てるシーザーちゃんもかわいいけど、やっぱ起きてる方がいいよなァ〜」
だからもう一回しよ、と言うと鋭い言葉が飛んでくる。「さっきだって起きてから突っ込んだんだろ!」と言われれば返す言葉もないが、起きてる方がいいというのは嘘ではないにしろ、先ほどの言葉は一回では足りないという思いに無理やり理由をつけただけにすぎない。説得する手間を省くために、誘うように震えるそこに指を重ねてねじ込むと罵声はとたんに喘ぎ声に変わった。
「ジョ……ぅ、あぁっ! ふぁ、く……も、十分しただろ……」
「エー、ぜんぜん足んねえっての。シーザーちゃんは寝ててよ、気持ちよくしてあげるからさあ」
「ふざけ……っぁう!」
指を突き込んだまま手首をひねると高い声が上がる。達したあとの体はわずかな刺激にも反応してしまう、というのは恋人の姿に学んだことで、ついでに言えばシーザーがジョセフの手を本気で振り払うことはないともう知っていた。
彼の内側で指を開くと、ゆるんだ口から精液がぼたぼたと垂れる。一気に興奮が煽られるのをジョセフは自覚した。
「……挿れるから」
「っぅあ、ちょっ、待……んぁん!」
短く宣言して、すでに勢いを取り戻している性器を埋める。一度開かれた体はジョセフの熱を歓迎するようにうごめいた。
よく知っている性感帯を刺激するように腰を使うと目の前の背が震える。照明の下で、シーザーの粘膜がいっぱいに広がってジョセフを飲み込んでいるのが見えた。体を起こすために立てていたはずの彼の腕は力をなくし、ただシーツにすがっている。シーザーの顔が見られないのは残念だな、と後ろから犯しながらジョセフは考えた。
放った精液が中に残っていて、抽送のたびに粘着質な音を立てる。露骨な音はシーザーの羞恥を煽るらしいが、嫌がりながらも感じていることをジョセフは知っていた。
顔をシーツに押し付けていては彼の好きな甘い声が聞けないので、シーザーの胸の下に手を入れて無理やり持ちあげる。予想しなかった動きにか、それによって内側を刺激する角度が変わったためか、気の抜けた声が漏れてジョセフは満足する。押し付けるように腰を動かせばあふれた精液が腿を伝った。
「ひ、ジョジョ、や……」
「なァに、気持ちよくない? その割にシーザーちゃんの腰、動いてるんだけどなァ?」
「う、ぁ……」
ジョセフを飲み込むところは濡れそぼっていて、身じろぎだけで水音が立つ。自ら快感を貪るように腰を振っていたことからかわれてシーザーの背がまた落ちた。
意地でも顔は見せない、と言わんばかりにシーツに埋まる彼に手を伸ばし、身を伏せて白いうなじに噛み付く。背と胸が合わさり、触れたところからまた熱が広がっていくような気がした。
律動を止めないままにシーザーの胸元に手をのばす。察した彼が身をよじって逃れようとするが、無駄な抵抗であるのは言うまでもない。二つの尖りを同時につまむと内壁が甘く絡みつくのがわかった。そのまま転がすように刺激するとくぐもった喘ぎ声が聞こえる。
ジョセフが彼の声を好むのはとっくに知っているはずなのに、意趣返しのつもりらしい。聞かせろ、と言うかわりにもう一度首筋に歯を立てた。反射的にのけぞったシーザーの掠れた声が届いてジョセフは満足気に口角を上げる。爪を立てるように軽くひっかくと耐え切れないように頭を振った。
「あ、ンぅ、ひ……っ」
「かーわい……シーザー、おれ、もうヤバい、かも」
「や、ひぁっ……ぁ、早く、イけ……!」
胸の頂点を挟んだまま下向きに引っ張れば熱い粘膜がジョセフをしぼる。その締め付けに逆らわず奥に吐き出した。
精液を受け止めて背を粟立たせるシーザーの前に手を伸ばし、荒っぽくしごき立ててやる。ひきつれたような呼気とともにシーザーも達して、白い腿が震えるのを見ていた。
一滴残らず注ぎ込み、満足してジョセフはシーザーの隣に転がる。シーザーはすぐに隠してしまいたがるが、彼が事後にすこし抜けた表情を浮かべるのが好きだった。
うつ伏せに荒く息をつくシーザーの肩を掴んでごろりと転がすと、予想通りに目尻を真っ赤に染めていた。今日は抵抗する気もないのか、目を伏せただけでジョセフの視線から逃げることもない。汗ばんだ額にキスを落とすとくすぐったそうに身じろいだ。
「……好き勝手しやがって、このやろう……」
「シーザーも気持ちよかったんだからいいじゃん」
「スカタン、おれじゃなきゃ訴えてるところだ」
おそらく罵っているつもりなのだろうが、言葉の裏にあふれる愛を感じてジョセフはすこしばかり頬が熱くなるのを感じた。こういうところがスケコマシたるゆえんか、とどこか感心しながらシーザーの目の下のあざを親指でなぞる。その動きはほとんど癖に近かった。
「でも、好きだろ?」
確信めいた笑みを浮かべながら言えばシーザーの淡い瞳がきょとんと見開かれた。一瞬前まで情事の色気を乗せていたのに、そうやって無心に見つめる顔はどこか幼くもある。ずりーなあ、と内心に唇をとがらせるジョセフは、当のシーザーも目の前の男に同じような思いを抱いていることなど知らない。
「……まあな」
そうやってシーザーがゆっくりと笑うから、ジョセフは彼を手放せないのだ。かわいいなこのやろう、と内心になじってジョセフは鼻先に噛みつく。修行を思い出したシーザーが彼の顔に金属のマスクを嵌めるまで、二人は飽かず唇を交わしていた。