そういうミステリー

 シーザーの体内を駆け巡る熱は、ジョセフに触れられると途端にその性質を変えた。胸を内側からノックする衝動にひきずるような呼吸を繰り返して目の前の男に縋る。くすぶる衝動は発散を求めて渦巻くが自身の体は震えてしまってどうにもうまく働かない。さわって、とひそめた声には隠しようもない情欲がにじんでいた。

 同性愛など考えたこともなさそうなジョセフだったが、額に濡れた髪を張りつかせて浅く息を吐く兄弟子の姿にあてられてしまったらしい。何度も繰り返したキスにもう抵抗はなさそうだったし、シーザーがねだった通りにその右手を下肢に伸ばす。兆した熱を布越しにゆるく撫でられてシーザーは息を詰めたが、じれったい刺激で満足できるはずもなく彼の手に押し付けるように腰を揺らした。浅ましい真似をしている、とどこかで己の声が聞こえたが、良識に操を立てるよりも衝動を解放したかった。

「っ、ァ! おま、いきなり……っ」

 荒っぽい手つきで下着ごと剥かれ、外気に触れる核心を握られてシーザーは思わず声を上げた。彼の抗議など聞こえなかったようなジョセフの手の動きに、シーザーのそこはたちまち充血する。育っていく快感の大きさを受け止めきれず、「も、と、ゆっくり」と喘ぐと「我が儘なお姫様だな」とジョセフが笑んだ。
 ジョセフに触れられるだけで快感が背筋を走るのを認めるしかなかった。彼の唇も、指も、不快な熱に浮かされるシーザーを触れたところから溶かしてほどいていく。それが薬の効果か、あるいはジョセフの体に満ちる波紋によるものかはわからなかったが、今まで感じたことのない快感にシーザーはすぐに昇りつめた。

「……んぁ、出、る……!」

 幹をしごくジョセフの指が括れの裏側をこすって、吐息とともに達する。吹き出した白濁にジョセフが身じろぐのがわかった。力の抜けたシーザーは仰向けになったまましばし自室の天井を見つめて、そういえば明かりも消していないと今更のように思いだす。その視界にぬっと黒髪が割って入って、唇を舐められた。
 仰のいた姿勢でのくちづけはいまだ呼吸の整わないシーザーには少々酷で、ジョセフの背中をゆるく叩くとようやく解放してくれた。近い距離に浮かぶ彼の瞳に確かな欲情がにじんでいることを見てとり、シーザーはなぜだか安堵を抱いていることに気づく。上体を起こしてジョセフの腰を撫でると目の前の体が震えた。

「ちょ……シーザーちゃん?」
「……礼と、お返しだ」

 シーザーに体重をかけないよう腰を浮かせているジョセフの服をゆるめるのはたやすい。速すぎる血液の循環に指先が震えているのを自覚するが、なんとか前を寛げてジョセフの性器を取り出す。男の達するところを見ていたのに萎えもせずピンと反ったそれに、少なくとも気持ち悪がられてはいないらしいと見当をつけた。そのまま自分がされたのと同じようにこすりたててやろうと手を動かすが、震えて上手くできない。薬に煽られた脳には末端までコントロールする余裕はないようだった。ジョセフもそれをわかっているのだろう、力加減を間違えやしないかという恐怖を感じているらしかった。

 覆いかぶさるジョセフの下から腕を伸ばして彼の分身を撫でていたシーザーは、彼の耳元で「ジョジョ、座れ」と端的に言って自身も身を起こす。大人しく言葉に従ってベッドに尻をつける彼に這ったまま近づき、股座に顔を寄せた。

「……ってシーザー、それヤバいって!」

 慌てたようなジョセフの声が降るが対するシーザーのいらえはない。ジョセフの足の間で彼自身に舌を這わせていたからだった。
 シーザーの手の中で脈打つ熱を先端から根元にかけて舐め上げ、探るように視線を上げる。色づいたその瞳にジョセフは知らず喉を鳴らした。己の舌先が触れるたび大きさを増す素直なそれにシーザーは奇妙な満足感を覚える。なにをやっているのか、と呆れる自分も脳内に確かに存在するが、彼の性器を舐めることに不思議に抵抗はなかった。どくどくと異様な速度で跳ねる心臓が理性を奪い去るのだと思う。もっと、と沸騰した思考が先を求め、ちろりと先端に舌を伸ばしてから大きく口を開けてシーザーはその口内にジョセフを招いた。

「……ッ! シ、ザー……!」
「ん、ふ、ンン……」

 濡れた粘膜に包まれ、ジョセフはその感触に肩を跳ねさせる。ただでさえ息苦しく感じているのに大きな塊を咥え、うまく呼吸が出来ないシーザーの唇からは声にならない音が漏れた。浅く息をつくシーザーの口の中は熱を持ち、肌に感じる苦しげな呼気すらジョセフの性感を高めていく。普段はツンと取り澄ます兄弟子が発情した表情を浮かべて己の性器を咥えるその光景にジョセフは腹の底が熱くなるのを感じた。その感覚に忠実に角度を変える昂ぶりに圧迫され、シーザーの目もとが泣きそうにゆがむ。味蕾に残る苦さを無視して薄い皮膚に舌を這わせるとはしたない水音が鼓膜を揺さぶり、その粘った音にシーザーはわずかに残った理性が剥がれていくのを感じた。

 同性であるから感じるところはわかっている。長大なそれを限界まで飲み込み、舌で裏側を責めると口の中の圧迫感が増した。如実な反応がなんだかかわいらしくて飽かず刺激を与え続ける。指先は跳ねる鼓動に震えたが、中枢に近い舌先は問題なく操れた。大きく開いた唇からは唾液が垂れ、荒い呼吸とともに切れ切れの声がこぼれても熱に浮かされた頭ではそれも興奮剤になりうる。自分よりも大きな体躯の男を翻弄できるということに仄暗い満足感を抱き、咥え切れない根元を右手で慎重に擦り上げると頭上からうめき声が漏れた。女性をなによりも大切に扱うシーザーはこんな風に奉仕された経験はないが、相手の生殺与奪を握る感覚というのはなんだか楽しいものだなと場違いに目を細めた。

「シ……ザ、も……」

 限界を訴える声とともに金髪をくしゃりとかき回されて、シーザーは視線を上げる。その視界の真ん中に映るジョセフは顔を真っ赤に上気させて荒い息を吐き、その様子が見たことないほどセクシーで思わず動きを止めた。ドッドッと早鐘を打つ心臓の音がひときわ大きく耳につく。ごく、と唾を飲み込む動きが決定打になったのだろう、口の中の性器が大きく脈打って熱い奔流が噴き出した。
 一瞬呆けていたシーザーは熱を感じて慌てて吐き出すが射精の勢いは止まらず、中途半端に抜けた分精液が口元と顔を汚す。口内に溜まった分を飲み下すとなぜだか胸が苦しい気がした。二人分の浅い呼吸音がいやに耳につく。天を仰いで性感の余韻に浸っていたジョセフは、シーザーの濡れた顔を見ると途端に慌てた。

「シ、シーザーちゃんごめん! えーと、顔拭くもの……」
「……別に、構わねえよ」

 頬に飛んだ精液をぞんざいに指の腹で擦りながらシーザーは言った。ベッドの周りをばたばたと探していたジョセフが動きを止めてその大きな瞳を向ける。粘つく液体がまた顔を伝うのを舌で受け止め、ジョセフに見つめられているのを感じながら「おれが望んだことだ」と小さく呟いた。
 悪い熱に浮かされているのは自分なのだ、ジョセフはそれに付き合わされているだけ。そう考えるシーザーの言葉は本心で、薬を飲んだのも彼を愛撫したのもすべて自分が望んだ結果だといえた。しかしジョセフはぱちぱちとまばたきを繰り返すばかりで、中途半端な形に動きを止めたまま黙っている。唐突に落ちた沈黙にシーザーが居心地の悪さを感じていると、彼の太い腕によって奇妙な静寂はあっさりと破られた。

「……てめっ、いきなり何しやが……」
「シーザーちゃんたら、おれとこうしたかったわけ?」

 急に突き飛ばされてシーザーはあっさりとシーツに埋もれた。突然の行動に文句を言いかけると、彼に覆いかぶさる男の声がそれを遮る。逆光の中見あげれば、シーザーの上で悪い顔をしたジョセフが笑っていた。その言葉の意味を理解してシーザーの顔にカッと血が上る。彼の今までの行動は薬によって平常心を失っているためだとわかっているはずなのに、ジョセフはまるでそれがシーザーの望みだったかのように言った。

「ざけんじゃねえ、気色悪いこと言うな」
「エー、望んだことだって言ったのはそっちでしょォー? それに」

 言ってジョセフはシーザーの鼻先にキスを落とす。かわいらしいそれにシーザーが一瞬毒気を抜かれて見上げると、見透かしたようにジョセフが笑った。シーザーの心臓の上に手を当て、上気した肌を服の上からゆっくりと撫で下ろす。布越しの感触に彼の背筋がぞわりと逆立ったのを見て満足気に目を眇めた。

「おれに触られてると気持ちいいんでしょ。わかってるんだぜ」
「……!」

 ジョセフの言葉にシーザーは声を出さないまま大きく目を開いて、それがなによりの答えだった。その反応に確信を得たのか、ジョセフは布越しに撫でていた手を服の下にもぐり込ませ、そのまま胸元までまくり上げる。その手つきに迷いはなく、シーザーが制止の声を上げるより前に胸の赤く色づいたところに吸い付いた。

「ふ、っあ……!」

 ジョセフの唇がもたらした予想もしない感覚にシーザーの背が反った。そこは触れられる前からツンと立ち上がっていて、もたらされる刺激を逃すまいと貪欲に震える。彼の如実な反応にジョセフの目が三日月形に歪むが、それを視界に捉えながらシーザーの頭は混乱の極みにあった。女性じゃあるまいし、胸で感じるなど考えたこともない。なのにシーザーの体はジョセフの舌がその粒を転がすたびにびくびくと震え、下肢に溜まる熱はまぎれもなく性感を示していた。薬でもたらされた変調か、と考える彼に構わず、ジョセフは容赦なく刺激を与え続ける。空いた方を左手できゅっと摘み上げられ、シーザーの口からは隠しようもない喘ぎ声が漏れた。

「んああっ! ……ッ!」
「……シーザー、胸でも感じちゃうんだ」

 唇からこぼれたあられもない声に驚いて慌てて口をふさぐが、もちろん今しがたの嬌声が取り消せるわけではない。自分の体が信じられなくて顔色を変えるシーザーにジョセフの意地悪い言葉が届いた。怒りを込めて睨みつけても、マウントポジションを取られて肌をまさぐられている状況ではどれほどの効果があったかわからない。薬の影響がなければ殴ってやるのに、と思ってみても震える指先は強く拳を形作ることもできなかった。

「っの、せいだと……!」
「あらァン、おれのせいだってわけ? ちょっと触っただけでこんなになっちゃうシーザーが淫乱なんじゃねえの」

 言いながらジョセフは指先で敏感なところを弾いて、その刺激にもシーザーは息を殺して耐えなければならなかった。こんな風に乱れてしまう原因は師範代に渡された薬だとわかっているが、それでもジョセフに触れられなければこんな感覚を知ることはなかった。ジョセフの跳ねまわる前髪が首筋に触れる感触すら無意識に追いかけてしまい、鋭敏に過ぎた肌は彼の指先を待っている。すべての始まりは洗面所で触れたジョセフの体温なのだと思い出したシーザーは、自身が誘ったことも棚に上げて涙目で抗議した。

「……お前に触られて、からッ、……変なんだ……!」

 潤んだペリドットの瞳に訴えられてジョセフの動きが凍る。一瞬ののち、頬にぶわわと朱がさして「……このっ」と小さく呻く声が聞こえた。体を巡る熱に浅く息を吐きだすシーザーの視界はぼんやりとかすみ、彼の表情もうまく見えない。不意に口に指を突き立てられて、シーザーは思わず声を上げた。

「――ンンッ!?」
「舐めろよ。おれのせいだって言うなら、ちゃあんと気持ちよくしてやるからさ」

 そう言うジョセフの言葉には有無を言わせないなにかがあって、もとより力の抜けた体では抵抗もできないシーザーは思考が溶け出すままに大人しく従った。押し込まれた2本の指に吸い付き、唾液を絡める。性器を咥えていたときより露骨な水音に今更のように羞恥を覚えた。だらしなく口を開いて舌を差し出すシーザーを見つめるジョセフの瞳がどんな色をしているのか、知らない。
 ほどなくしてジョセフの指は引き抜かれ、呆けたシーザーは舌をつきだしたまま彼が身を起こすのを見ていた。触れていた肌の温度が遠ざかるのに比例してざわざわと悪寒にも似た不快感が広がるのを感じる。薬によって強制的に心臓の活動を早めていることによる不協和音なのだろうそれは、不思議にジョセフに触れられている間だけは気にならなかった。

 体を襲う嫌な熱にぎゅうと瞼を閉じるシーザーは、むき出しのままの下肢に触れられてぎょっと目を開いた。慌ててわずかに上体を起こすと、彼の膝の間でジョセフが右手を差し入れていた。シーザーが口を開くあいだに彼の指が双丘の間に触れ、飛び出すはずの言葉は気の抜けた呼気となって部屋に散る。十分に濡らされた指は彼の奥まったところに浅く埋められ、ただでさえひきつれた呼吸がさらに不自由になった。全身にかいた汗で肌は濡れ、シーザー自身の唾液に塗れた指がゆっくりと侵入する。痛みよりも異物感ばかりが先に立って、シーザーは弾む呼吸を繰り返すのに精一杯だった。

「……な、ジョ……っふ、やめ……ッ」
「男同士はここ使うんだろ、慣らしてっから黙ってな」

 さらりと言ったジョセフは息を乱した様子もない。触れられているのはシーザーばかりで、怪しげな薬を飲んだわけでもない彼が平静を保っているのはいかにも当然なのだがそれがなんだか腹立たしかった。一瞬思考をよそに向けたシーザーは、感じる圧迫感が増して思わず息を詰める。指を増やされたことは容易に想像がついたが、対する抗議の言葉は巡る鼓動に邪魔されてろくに音にならない。切れ切れの母音ばかりが唇から漏れて、にじんだ涙が視界で揺れた。

「……ッあ!?」

 差し込まれた指がぐるりと探るように動いて、内壁を広げていく。その動きに今まで感じたことのない感覚を覚えてシーザーは声帯を震わせた。大きく瞠られた淡いグリーンの瞳を見てジョセフが笑う。「感じるとこ見っけ」と言いながら同じ所を何度も擦る彼の笑みは悪童のそれと同じだった。

「や、ジョジョ……やめ、やだって!」
「ここがいいんだろ? ここまで来て意地張んなって」

 シーザーの嫌がる声などまともに取り合わず、指で彼の体内を暴く。ジョセフがそこにぐりぐりと指先を押し付けると感じたことのない快感が全身を走りぬけ、反り返るシーザー自身がだらだらとよだれをこぼした。いつの間にか3本に増やされたジョセフの指は奥をえぐったかと思えば入り口を押し広げ、そのついでのように前立腺をかすめていく。不規則なその刺激にシーザーは翻弄され、もがいた指はシーツを引き寄せた。快感を得ていることを認めたくない彼の意識とは裏腹に、シーザーの全身は性感に翻弄されていた。

「だいぶやわらかくなってきましたねェーっと……ん、これ」

 シーザーを片手だけでかき回しながら、ジョセフはベッドサイドのテーブルに視線を留める。こまごまとしたシーザーの私物が載っているそこには、小さなガラス瓶が転がっていた。小瓶をひょいと取り上げたジョセフは何かをひらめいたように眉を上げ、その笑みをいやらしいものへと変えていく。かわいらしい音を立ててコルクが抜かれたそれは、昼間シーザーが師範代から渡されたものだった。

「このお薬を使えばシーザーちゃんももっと素直になるかねェ?」
「……なん、ッ、ジョ……ッ」

 言ったジョセフは小瓶を傾けて底に残った液体を指に受け、そのままシーザーの中に押しこむ。とろりと粘度のある液体は潤滑油としても役割を十分に果たしたが、それ以上の変化を彼にもたらした。指先を食い締める感覚がゆるんだことに気づいたジョセフはシーザーの様子をうかがうために視線を上げ、すぐにそれを後悔する。
 もはや呼吸と同時に喘ぎ声が漏れてしまうらしい彼の瞳はとろりと蕩け、上気した頬を汗とも涙とも付かない雫が伝う。ポルノ雑誌でもお目にかかれないようなあからさまに快感を訴える表情にジョセフの股間も疼いた。もっと丁寧に慣らしてやらなければ、と必死に気遣っていたものが吹っ飛びそうになる。それでも目を離せず、シーザーの赤い舌がもつれて動くのを見ていた。

「は、あぁっ……ジョジョ、んぁ、あつ、い……」

 先ほどまでの否定の言葉の代わりに落ちたのはシーザーの甘い声で、もう彼には弟弟子の前で浅ましくねだることを疎むほどの余裕はない。熱にとろけたシーザーの頭を占めるのは理性ではなく、衝動のままに求める本能だった。粘膜にしみこんだ薬は内にくすぶる熱を煽り、上限など知らないようにその温度を高めていく。苦しいほどの感覚から解放してくれるのはジョセフの体温だとすでに知っている唇から、哀願に似た言葉がすべり落ちた。

「も、ふぁ、ン……はや、く……さわっ、て」
「……お前な……あーもう、後悔すんなよ?」

 そんな風に煽られて我慢出来るはずもない。諦めたように答えたジョセフは突き立てた指を抜き、自身の昂ぶりを押し当てた。抱かれるというのにもう嫌がりもしないシーザーは、ただ体をめぐる熱からの解放を願っている。靄がかかったような思考の中で、ジョセフだけが己を助けてくれるのだと信じていた。

「……力、抜いとけよ」
「……あ、ああッ」

 荒っぽく気遣う言葉を合図に、ジョセフがゆっくりと入ってくる。先ほど射精して、それから何も愛撫を施していないのに固くなっている彼をシーザーはすこしだけ疑問に思ったが、そんな思考など吹き飛ばすような感覚が襲う。ジョセフの指で慣らされ、薬で潤いを与えられたそこは危惧していたほど痛みを生まなかったものの、代わりに圧迫感がひどい。痛みがないのは薬のせいかとも思うがどちらにせよ確かめるすべはなく、押し込まれる異物に息を浅くするシーザーは口を開けたまま掠れる声を漏らす。無防備な唇をジョセフに奪われ、それだけで体を襲う苦しさが不思議にやわらぐ気がした。

「シーザー……きつい?」
「ンぁっ、ひん、聞くなスカタ、ン……!」

 舌を絡めるくちづけの合間に問われて切れ切れに言葉を返す。けれど覆いかぶさるジョセフの体温を肌に感じるとそれだけで強ばりがほどけていく気がして、シーザーの体は彼を受け入れるために変化を始めた。唇が合わさる度にジョセフはじわじわと侵入し、一番太いところを越えるとその勢いのまますべて収まる。彼の腹筋を太ももの裏に感じたシーザーはそのことを思い知ってえも言われぬ満足感にひたった。

「……ハ、全部入っちゃったぜ、シーザーちゃん……」
「あ、んん……わざわざ言う、なっ」

 そう言って目を細めるジョセフの表情を見ていられなくて思わず顔をそむける。そのわずかな身じろぎにも体の中の彼を如実に感じてしまってどうしようもない。逸らした首筋を舐め上げられて、その感触すらまぎれもなく快感となってシーザーを駆け巡った。

「……なあにシーザー、首も弱いんだ」
「ち、が……っ」
「んなこと言ったって、体は正直だぜ?」

 出来の悪いセリフとともに示すように腰を揺らされて、シーザーは思わず呻いた。粘着質な音を立てる結合部はシーザーの追いかける性感を素直に伝えて、自分でも快感を覚えるとそこがきゅうと締め付けるのがわかる。それでも認めたくなくて言葉の代わりに荒い呼吸だけを繰り返していると、覆いかぶさるジョセフが頭の位置をずらして彼の胸元にくちづけた。舌先で乳暈から舐め上げられた途端に鼻にかかる声が出て、シーザーは白い肌を羞恥に染める。下から見上げるジョセフは実に楽しそうだった。

「すげ、胸いじると中きゅんってすんの」
「……この、最低……」

 呟くだけでも密着するジョセフには聞こえたらしい、胸の粒をかりと甘噛みされる。「んぁ!」と甘い声とともに背が反って、うごめいた内壁にジョセフの熱を一層近く感じた。締め付ける動きに眉根を寄せたジョセフがとてもセクシーに見えたなんて、それもきっと薬のせいだと思う。昼から続く薬の作用に振り回されて、体がぼんやりと浮かんで自分のものでないように感じる。そうでなければ、男相手に乱れる姿を見せるわけがなかった。

 「そろそろ……動くぜ」と宣言と同時に体の中の熱がずるりと動いてシーザーは喘いだ。先端まで引きぬかれ、また奥まで差し込まれる。荒っぽい律動ならば童貞が、と笑うこともできたが、抜き差しする動きの合間に的確に前立腺をかすめるからたまらない。初めて知る感覚にシーザーは身も世もなく喘いだ。

「あ、ひン! ジョジョ、は……あ、ああ……っ!」
「……ほんと、やらしいな、シーザー!」

 えぐる動きに合わせて切れ切れの言葉が落ち、ついでのように耳朶を食まれる。薄い皮膚に舌が這う感覚が性感を呼び起こし、開発されていく恐怖をうっすらと覚えた。投げ出していた手がそっと取られ、握りしめたシーツからジョセフの背中へと導かれる。そうして両手で彼の首筋を引き寄せれば二人の体がさらに密着して、シーザーの内に凝っていた不快な熱が溶け出していくのを感じた。
 ああやっぱり、と散り散りになりそうな思考の中でシーザーは思う。やっぱりジョジョはおれの求めるものを知っている、もたらしてくれる。なによりも心地良い体温を一番近くで感じてシーザーは彼のセクシーな唇をねだった。

「……かーわい。おれのこと好きなの、シーザー」
「……この、スカタ……ッあ!」

 答える間に自身を握りこまれ、シーザーの声は喘ぎにまぎれてしまう。「ガチガチじゃん、気持ちいいんだ」とからかうように言われて羞恥が募る。男に揺さぶられて感じるなんて平素なら考えられないが、その理由を探す前に薬のせいだと決めつけて思考を放棄した。腰の動きは止めないままにシーザーの分身を片手で苛むジョセフの余裕ぶった表情が憎らしくて、浮いたままの両足を彼の背中に回してぐいと引き寄せる。当然結合が深くなり互いの覚える快感も大きくなるのだが、その感覚をやり過ごすよりもジョセフの「うお!?」という間の抜けた声に笑った。

「……は、お前、も……っふ、気持ちいいんだ、ろ」

 浅い呼吸に邪魔されて切れ切れの言葉になってしまったが、ニヤリと笑んだシーザーの意図は伝わったらしい。驚いたように見下ろす弟弟子の姿にすこしだけ溜飲を下げたシーザーだったが、わずかな沈黙ののちに再開された抽送の激しさに悲鳴を上げた。

「ア……んん、ジョジョ……ッ!」
「ほーんと……煽った責任は、取ってもらう、からなッ!」

 ぐちゅぐちゅと耳を覆いたくなるような音とともに前後を容赦なく責められて、シーザーは視界が白く塗りつぶされる瞬間を知った。


★☆★☆★


 翌朝、修行場に現れた二人は明らかな寝不足にぐったりしていた。あのあと、一瞬意識が遠くなったシーザーはすぐに容赦ない快感で引き戻され、結局2回分中に出された。そこで体力を完全に使い果たした二人はしばらくベッドにうずくまり、その後のろのろと後始末を済ませてきれいなシーツに沈んだのは日が昇る頃だった。目が覚めたのはほとんど朝食の時間で、慌てて食堂に駆け込んだために夜が明けてからは互いにほとんど会話もしていない。薬で感覚がおかしくなっていたシーザーは、自分が一晩で何回達したのか覚えていなかった。

 そんな有様のシーザーを見て、師範代の二人は大笑いした。「眠れなかったんだろう」と言われたときにはうしろめたさから大げさに反応してしまったが、彼らが言うのは跳ね続ける心臓のおかげで眠気が来なかっただろうということらしい。それはたしかに事実だったので認めると、もともとそれも見越して薬を渡したのだとカラカラと笑われた。二日にわたって負荷をかけるものかもしれないというシーザーの考えは当たっていたらしく、どんな時間に襲撃されても対応できるようにという狙いのものらしかった。

 「寝不足は甘える理由にならんぞ」と言う師範代は横のジョセフもぼんやりした顔をしていることに気づいて「シーザーのせいか」と意味深に言った。さすがにうろたえる二人に、メッシーナとロギンズは「どうせ眠れないからと言ってジョジョを付きあわせていたんだろう」「我らにも覚えがあるものよ」ともう一度笑った。否定も肯定もできずに曖昧に笑うジョセフは「だがな、一晩中呼吸矯正マスクを外していたのは許せん。今日の修行メニューは倍だ」と言い渡されて思わずその表情を凍りつかせた。

 確かに彼のマスクは夜明けまで洗面台に放っておかれたままで、それが示唆する行動まで見ぬかれていやしないかとシーザーの背に冷や汗が流れる。そこに「二人で酒でも飲んでいたのか」とロギンズの助け舟が聞こえて、一瞬の間ののちジョセフが「そうなのよォ、リサリサには内緒だぜェー?」といつもの軽口で乗り切った。安堵のため息を吐きながらシーザーがジョセフを見やればまともに視線がかち合って、すぐに逸らされる。あんなふうに抱き合った翌日だから、どう接していいのかわからないのはお互い様のようだった。

 彼の視線を追うシーザーは無意識に自分の唇を撫でていることに気づき、急いでその手を下ろす。夜が明ける前、飽きるほど重ねた唇だ。体ばかりが高められていたシーザーとは違い、薬も飲んでいないジョセフがどうして彼を抱けたのか、シーザーには不思議だった。