だって、君のせい

 シーザーの長い指が自分のズボンの前を寛げるのを見下ろしてジョセフは口笛を吹いた。あきらかに揶揄するその音に眉を寄せたシーザーが抗議の視線を向けるが、そんな風に睨みつけたところで彼の両手は恋人の前立てを割り開いているのだから、ジョセフを増長させるだけである。深いブルーの下着があらわになったところで、ベッドヘッドに上体をもたせかけ、シーザーの指先を見つめていたジョセフがなにかを思いついたようににやりと笑った。

「シーザーちゃん、そっからはお口でしてチョーダイ」
「くっ……!? ……断る」

 視線を絡めたまま言えば、シーザーの瞳が見開かれたあと目の動きだけで視線を逸らされた。そりゃ強引に進めたけど、素直に恋人の求めに応えてくれてもいいじゃん? とジョセフは唇を尖らせるが、誇り高いシーザーにとってはいいように体を操られる状態がよっぽど不快なのだろう、その態度は頑なだった。

 自由に唇を動かして言葉を発することができる今の状態ならば、ジョセフの言うような口での愛撫を強制されることはないと思ったのだろうが、それはジョセフも織り込み済みである。呼吸を整えて左手に神経を集中し、シーザーの頬に触れた。ぱちぱちと波紋の火花が散ったのを視界に捉えて、ジョセフはニンマリと笑みを顔に浮かべる。彼の仕掛けを理解したのだろう、シーザーは反対に泣きそうな色をその瞳に宿した。

 キスの波紋を重ねがけされたシーザーは唇の自由も奪われて、ジョセフの望むままに彼の股ぐらに顔をすりつけた。これからの期待ですでに膨らみ始めているジョセフ自身を布越しにゆるく食み、すこし伸びあがって彼の下着を口で脱がせようと試みる。
 指を使えば一瞬で終わる動作だが、シーザーの両手はジョセフの太ももに縫い止められて動かせない。緩慢な動きに興奮がわき上がって、ジョセフの分身はさらに大きさを増す。布地を咥えたシーザーはその支えを得て、なんとか下着を脱がせることに成功した。硬くなったそこにすり、と頬ずりする動きもジョセフの思うままだ。瞳は操られる不安と嫌悪感に歪んでいるのに、シーザーの体は恋人に奉仕するべく従順に動いて、そのアンバランスな光景にジョセフの喉が上下する。興奮に呼吸が乱れるのを自覚して、マスク着けられる前でよかった、といささか場違いな安堵に胸をなでおろした。

 ジョセフが食い入るように見つめる中でシーザーがゆるゆると唇を開き、天を仰いだ彼自身をその口の中に迎え入れる。先ほどまで弟弟子と追いかけっこという運動をしていたシーザーの口腔は熱く、包まれる心地よさにジョセフは思わず息を漏らした。唯一自由になる瞳に力を込めてシーザーが恨みがましく睨みあげるが、その強い視線に征服欲が煽られてぞくりとする。ふわふわの金髪に手を差し入れて、なだめるように頭を撫でた。

 しかし、ジョセフの波紋はシーザーのそれほどにはコントロールがきかない。二重にキスの波紋を仕掛けた今でも、舌の動きを止めることはできるがそれを繊細に動かすことは望めないようだった。試みてはみるが、彼の舌はジョセフ自身に何度か押し当てる動きをしただけで、快感を得るには至らない。これならいつもの方が丁寧にご奉仕してくれるよなぁ、と考えたジョセフは計画の甘さにすこしだけ後悔した。下からじっとりと睨みつけるシーザーは性器を咥えたまま、微動だにしない。

「……歯、立てんなよ?」

 金色の髪を撫でていた手を引き、囁き声でジョセフは言う。もとより体を操られているのに念押しされてシーザーは疑問の色を視線に乗せるが、すぐにその瞳は大きく開かれた。
 ジョセフを咥えたままシーザーの頭が前後に大きく動き、開いた唇が太い幹をしごいて刺激する。その疑似的な性行為によってじゅぽじゅぽと荒っぽい水音が彼の口元から発せられ、シーザーは抗議に声帯を震わせた。舌も動かず、唇を塞がれている状態では明確な音になることもなく、くぐもったうめき声としてジョセフの鼓膜を叩く。唸りながら激しい口淫を施すシーザーの姿に、ふつふつと加虐心がわき起こるのを感じた。

「ふ……やらし」

 イマラチオにも近い行為にジョセフはうっとりと快感に目を細め、シーザーの口腔がもたらす刺激に汗をにじませた。単調な動きとはいえ粘膜同士がこすれあう刺激に自身がますます張りつめるのを自覚する。
 頭を前後に振るシーザーの動きは確かに強制されたものであるが、手で揺さぶられているわけではなく、従順に奉仕する姿に彼が自由意思で励んでいるのだと錯覚しそうになった。誇り高いシーザーなら、こんな風に自身を玩具に見立てた愛撫は決してしてくれないと分かっているから、待ち望んでいたありえない光景に性感とは違う熱に浮かされる。
 ともに熱を分かち合うセックスはたまらなく幸せだが、抵抗できない相手を組み敷くことに仄暗い欲望を覚えるのは否定できない。はあ、と興奮にかすれた溜め息を吐くと見上げたシーザーと視線がぶつかる。その両手がまだジョセフの太ももに置かれたままなのを視界に捉えて、すこしばかりの悪戯心で腰を突き上げた。

「ンぅっ!?」
「……ッ、これヤバ……」

 シーザーは頭を前後に動かしながらジョセフの雄を咥えていて、そんな状態で突き上げられれば切っ先が限界を越えて喉奥に達する。生理的な反応としてそこがきゅうと締まり、ジョセフは強い刺激にぶるりと身をふるわせた。異物をねじ込まれたシーザーの瞳は苦しさに潤み、涙目のまま「ンンンッ」と声にならない抗議を上げる。
 まだジョセフの逸物を咥え込んだままの視線に性欲を煽られるが、体を操れるからといって彼に苦痛を強要するのは本意ではない。「ごめんねー」と言いながらなだめるように髪を梳き、もうしないからと囁いて一旦止めていたシーザーの動きを再開させた。開きっぱなしの口からは唾液があふれ、先走りと混じってシーザーの唇を汚す。諦めたようにまつげが伏せられ、不規則に震えるのが見えた。

 正直なところ、以前何度かやってもらったフェラチオの方が気持ちいいのだが、普段ツンケンした態度しかとらない兄弟子を自分の意のままに操っているという興奮が快感を連れてくる。こぼれる呻き声と涙に視覚と聴覚から煽られ、ジョセフは追いつめられていくのを感じる。限界だ、とシーザーの後ろ頭を両手でぐっと抱え、喉をえぐらないように注意しながら腰を進めた。

「ちゃんと飲んで、ねェン……」
「ン、グ!」

 根元まで咥え込ませ、口腔内に精を注ぐ。びゅるびゅると勢いをつけてあふれる精液はジョセフ自身に栓をされて吐き出すこともできず、シーザーの口の中にどろどろと溜まっていく。ジョセフに手を離すつもりはないと察して、息苦しさから逃れるためにシーザーはその液体を嚥下した。強制した動きではなく上下する喉仏に、ジョセフは己の支配欲が満たされていくのを感じる。自身を引き抜くとシーザーの唇の端から白い液体が一筋流れ、それを親指で拭ってやった。頬を押し上げられて、きれいな緑の瞳が歪む。

「……おれのザーメン、おいしかったァン?」
「……てめーにはベッドのマナーから教えてやらなきゃならねえようだな、スカタン」

 性感による興奮で波紋の制御が甘くなったのか、時間の経過によるものか、シーザーの口は再び自由を取り戻したようだった。もう一度波紋を流すよりも先に進みたいとジョセフは考え、シーザーの体に指令を出す。唇という粘膜に触れて流した波紋はまだ効力を保っていて、ジョセフの思い通りに白い体が動いた。

「……てめっ、今度は何を……」
「おればっかじゃ申し訳ないからァー? 次はシーザーちゃんに気持ちよくなってもらおうと思って」

 ヘッドボードにもたれるジョセフの股座に顔を埋めていたシーザーが体を起こし、ベッドの上で膝立ちになる。すでにベルトを外したズボンを自分の指が寛げるのを見て、諦めているだろうにそれでも悔しそうな表情をジョセフに向けた。

 下着ごと一気に下ろし、足の間でもつれる布地を蹴飛ばすように放り投げる己の体に、正確にはそれを操るジョセフに、シーザーは「もうすこし丁寧に進めろよ」と文句をつける。これじゃジョジョじゃねーか、と不満げに呟かれて、そういえば彼を抱くときは気持ちばかりがはやって、服を脱ぐのだって焦っていたなとジョセフは過去を振り返る。がっついていることを指摘された気がして、すこしばかり頬を膨らませた。
 その意趣返しに、と波紋を操ってシーザーの体を動かす。下肢がむき出しの姿でベッドに尻をつかせ、前に投げ出した足を折って立たせる。ジョセフに向かってM字開脚した格好に、シーザーは羞恥に顔が染まるのを自覚した。

「このスカタン、何考えて……!」
「なにって、男の夢だろ?」

 もっと腰突き出して、奥まで見えるように。ニヤニヤ笑うジョセフの言葉に合わせて、言われた通りにシーザーの体が動く。勝手に膝が開いて、見られたくない箇所が無遠慮な視線にさらされた。目をきつく閉じて羞恥に耐えるシーザーに、「あっれーシーザーちゃん、勃ってるじゃん」と弾んだ声音の言葉が降る。確かにシーザーの性器は充血して立ち上がり、開いた足の間で所在なさげに揺れていた。ジョセフに指摘されずとも自身の体の兆しを理解しているシーザーは、揶揄する言葉に肌が熱くなるのを感じる。

「無理やりしゃぶらされて興奮しちゃったの? やーらしー」
「……るせえ、スカタン……ッ」

 否定にすらならない言葉しか吐けない己が情けなくなる。ジョセフはそんなシーザーにはお構いなしに、ベッドサイドのチェストをごそごそと漁って小さなガラス瓶を取り出した。点けたままの照明の下できらきらと光を反射するその中に満たされているのは、波紋修行用の油である。
 性交の際に文字通りの潤滑油としてそれを用いるたび、シーザーは師の顔を思い浮かべ罪悪感で胸が重くなるのを感じるのだが、ジョセフは気にも留めていないようで「シーザーちゃん、手ぇ出して」と要求してきた。否応もなく右手が動いて、上に向けた手のひらに冷たい液体がとろとろと垂らされる。その冷感にぎょっとシーザーは目を瞠った。

 何度か体を重ねたとき、シーザーの慣れない器官をほぐすのはいつもジョセフだった。そもそも他人に触らせるなど考えたくもない箇所であるし、はじめはシーザーも抵抗したのだが、「優しくするから」と巨体を折り曲げて下から懇願され、もとよりジョセフに甘い彼はほだされてしまったのである。実際ジョセフの手つきは普段の言動に比べてはるかに丁寧なもので、その指先に愛情を感じた気がしてシーザーは赤面したものだった。
 しかし、今潤滑油を纏わせているのはシーザー自身の指である。これが何を示すのかわからないほど彼は初心ではない。まさか、と指先に落とした視線を上げると、ジョセフが考えを読んだように「ンフフ、正解ー」と実に楽しそうに笑った。

「見ててあげるから。自分でしてみせて?」
「……っの、悪趣味野郎!」

 噛みつくように叫んだシーザーだが、その唇が閉じる前に後孔に指を突き立てられて、開いた口から「ヒッ」とちいさな叫びを漏らした。 人肌で温められた油の滑りに助けられて、指先は抵抗なく入りこんでいく。異物感に息が詰まり、反射的な反応として背が丸まるが、ジョセフの波紋がいまだ有効であるために開いた膝を閉じることもできない。何度か抜き差ししたあと前触れもなく2本目の指が挿入され、白い肌が震えた。

「ぁ、ンン……ふ、う……」
(……想像してた以上に、すげえ)

 目の前で大きく足を広げ、見せつけるように指を動かすシーザーにジョセフは知らず喉を上下させる。2本含ませた指を揃えて抜き差ししたり、拡げるように動かすたびに切なげな声を上げる恋人の姿は確かにジョセフが望み、仕組んだ結果ではあったが、頭の中であれこれと考えていたのとは比べ物にならないほど刺激的な光景だった。

 今まで体を重ねるときには必ず照明を消すようきつく言われ、年下の恋人は従順にそれを守っていたから、明るい中でシーザーの体をじっくりと眺めるのは初めてである。皓々とした光の中で見られている羞恥に肌を赤く染めるシーザーはたとえようもないほど煽情的で、それが自分の意思によって体の隅々まで操られているかと思うと、ジョセフは自分が興奮で鼻血を噴かないのが不思議なほどだった。片腕で後ろ手に体を支え、自身の右手の動きに耐えられないように吐息を漏らすシーザーに釘付けで目が離せない。

 はやる気持ちのまま薬指もねじ込ませ、荒っぽい動きでかきまわすとぐちゃぐちゃと粘着質な音が立った。たっぷりと垂らされた油によるものだと分かっていても、露骨に性行為を思わせるその音に興奮が加速する。体が密着していないぶんシーザーを存分に観察できて、何も施していないはずの彼の先端から透明な雫が伝っているのを見てジョセフは唇をゆがめた。彼自身の指が拡げるそこは上がった体温に赤く染まり、浅いところを抜き差しするとめくれたふちから内壁が覗く。3本の指を揃えて突きこむとシーザーの性器が震え、彼が快感を得ていることが知れた。
 早くとろけたところに挿れたい、だけど自分で慰めるシーザーをまだ見ていたい。相反する欲求に頭がぐらぐらと揺れる。自身が仕掛けたこととはいえ、なんでこんなにえろいのこいつ、と理不尽な文句を胸の内で吐き捨てた。

「は……ジョ、ジョ……ッ」

 呼ばれて、視線を上げた。ジョセフが見つめる先で、自分の指とはいえ無遠慮に体を暴かれる感触に瞳を濡らしたシーザーが射抜く視線で言う。おそらくは、その瞳の強さがジョセフの燃料となることを確かに理解したうえで。

「……ン、ぁ……操られ、てるおれで、ッ……満足でき、るのかよ?」
「……この、スケコマシがっ!」

 だめ押しとばかりに唇の間から赤い舌をのぞかせるシーザーに理性が焼き切れた。満足できるわけがない、彼自身の意思で体を開いて、受け入れてほしい。乱暴に扱ってやりたいというのは雄としての本能に根ざした欲望だが、恋人をあまく抱く時間の素晴らしさはもう知っていた。
 引き寄せられるようにくちづけて、舌を強く吸いながら波紋を流してやる。その唇によってキスの波紋を打ち消されたシーザーの肩がビクン、と大きく揺れて、そのまま伸びてきた左手に頬をつねられた。

「……いひゃいいひゃい、ひゃめれって」
「ほーお、どの口がンなこと言うんだ、このスカタン」
「う、上のお口ー……なんつって、シーザーちゃん痛い痛い!」

 頬を引っ張る指はすぐに離れたが、合間に軽口を叩けば容赦なく頬を張られた。利き手ではないあたり加減しているのだろうが、恋人の戯れというには強い音が立った。
 とはいえジョセフとてそれ以上の無体を働いた自覚はあるので、シーザーの腰を抱いたまま大人しく次の言葉を待つ。強制された動きを止めて深い溜め息を吐いた彼がどれほど怒っているか、まだうかがえない。乱れた呼吸を整えるためか、数拍の間があった。

「……ずいぶん無茶苦茶やってくれたな、無理な動かし方したから体が痛えぞ」
「わ、悪かったよ」
「たがらお前は人体の構造が分かってないっていうんだ、関節の可動域や筋肉の限界をもっと知るべきだ。にしてもよくキスの波紋なんて再現できたな、確かに腕は上がったようだが、たまには座学の修行でも……」
「いやいや、シーザーちゃん?」

 ジョセフの腕の中に収まったままぺらぺらと言葉を繋ぐシーザーに待ったをかけた。身長差から、なんだ? と問いかける視線が見上げて、ジョセフは心臓が元気に活動する音を確かに聞く。ああそうだ、こういう男だった。誰かの前でも二人きりでもそしてベッドの上でも兄貴ぶるところが憎らしくて、たまらなくいとおしい。それでも数分前の状況を考えるに、もう少し甘い、イヤラシイ雰囲気があってもいいのではないだろうか。不満にくちびるが尖るのを自覚しながら、ジョセフは「そういうとこ、シーザーだよなァ……」とつぶやきを零した。

「……お前、おれになにか不満でもあるのか」
「いやいや、そうじゃないぜえ? ……あー、いや、多少不満がないわけでもないかも」

 シーザーの言葉を慌てて否定したものの、もうちょっと恋人らしく振舞ってほしいと考えていたことは事実で、どうにも煮え切らない返事になってしまう。一瞬の沈黙で答えたシーザーは目の前のジョセフの胸板を押し、静かに距離を取った。その行動にヒヤリと肝が冷えて、「多少っていうかちょびっとな!? ちょーっとだけよ!?」と慌てて取り繕うが、うつむいた金髪の奥から「いい」と静かな声が落ちるだけだった。
 やっちまった、完全に怒らせた、とジョセフの背中を冷や汗が伝う。その感触にそういえばまだ服も脱いでなかったな、と頭のどこかで冷静な声が響いたが、今はシーザーの一挙手一投足に全神経をとがらせた。恋人から不満があると言われて、案外激情家なこの男はどう出るだろうか。息を詰めて視線を注ぐ中で、シーザーはふわりとその髪をかき上げる。

「……いいぜ」
「……へ? なにが?」

 あまりに短いシーザーの言葉に、切れるジョセフといえど理解が追いつかない。動きを止めたその上体が軽く突き飛ばされ、ベッドの上に転がされた。頭を打ちつけるようなことはなかったものの、恋人の乱暴な行動に文句をつけようと口を開くが、音になる前にシーザーの唇に飲み込まれた。
 ふれるだけのキスから開放された唇をぽかんと開いて見上げると、肌をしっとりと上気させたシーザーがジョセフの腹の上に馬乗りになり、眇めた視線で見下ろしている。「不満だったんだろ、いいぜ」ともう一度告げるその表情が淫らに歪んでいて、ジョセフは覚えず喉を鳴らした。

「お望み通り、最高に乱れてやるよ」

 言って覆いかぶさるようにくちづけられ、ジョセフはお手上げの気分でもう一度「このスケコマシがっ!」と胸中で呟いた。



「は、ジョジョ、……ん、そこ……っあ」
「……すげ、っ、持ってかれそ……」

 ジョセフの意思で動かしたシーザーの指のおかげで、受け入れるところはとろとろに解れている。そこに自身の熱を埋めて何度も穿つと、律動に合わせて「あ、あ、」とシーザーの唇から声が零れた。性器の裏を抉るように突き入れると、耐えきれないような声が上がる。組み敷いたシーザーの腕がするりと伸びて、ジョセフの黒髪をつかんだ。

「や、だ……そこ、やめ、ンンッ」
「ンー? ここがいい、わけ?」
「ひぁっ!」

 だだっ子のように首を振るシーザーに気を良くして、彼がだめだと主張するところを目がけて往復してやる。途端に高い声が上がって、締めつけられる感覚にジョセフも眉を寄せた。

「……わざわざ言わなくても、シーザーのいいとこなんてもう知って、んだぜ……っ」
「あ、やだ、ジョジョ、だめだ……ッ」

 突き入れる動きの合間にそう言うと、シーザーの体がぶるりと震えた。その濡れた瞳を覗き込んで、小さくイったらしいことを知りジョセフはニヤリと唇をゆがめる。
 きっと彼は、その表情にシーザーが欲情していることは知らないのだろう、だからこそ体を操って乱れさせるなんてことを考えついたのだ。そんなことをしなくても、シーザーの心も体もとっくにジョセフのものだとわからせるにはどうしたらいいのだろうか。シーザーの脳裏に一瞬浮かんだ思考も、彼の凶器に深々と抉られて息とともに押し出される。非日常的なシチュエーションに興奮したのだろうか、いつもより感度が上がっていることを認めないわけにはいかなかった。

「ジョジョ、んあ、ジョジョ……」
「イキそ? シーザーちゃん」

 荒い呼吸の間に尋ねられ、声に出す余裕もなくシーザーはこくこくと頷いた。ぎりぎりまで引き抜かれたジョセフに勢いよく穿たれて、溜め息のような悲鳴とともに達する。シーザーの全身が痙攣して、当然のように締めつけられたジョセフもその中に精を吐き出した。

 は、は、と浅く胸を上下させるシーザーは数呼吸の間放心していたが、いまだ体内に居座るジョセフが不穏に動いたことを感じとって肩を揺らした。咎めるような視線を送っても、押しかかる男は悪びれたそぶりもない。「……おい、抜け」と口に出してもニヤついた笑みが返ってくるばかりで、少しばかりの諦めの気持ちで顔をそらす。自分がジョセフを甘やかしていることは自覚していた。

「な、シーザー、もいっかい」
「……ざけんな、明日も修行はあるんだぞ」

 シーザーの顔の横に肘をついて懇願をささやくジョセフに、つとめて冷たい返事を返す。その瞳を見ればほだされてしまうことはわかっているので顔はそむけたままだが、体内に収まったままのジョセフが前触れなく動いて一瞬息を詰めた。視線だけを動かして見上げれば、恋人の悪い顔が視界に入る。もう一度、射精してもまだ硬度を保つ性器に今度は明らかな意思を持って下肢を穿たれ、シーザーは「聞いてんのかスカタン!」と声を上げた。

「聞いてますけどォー、シーザーはまさかこれだけのつもりだったわけ」
「……これだけっててめえ、2回もイってんだろうが」
「2回だけ、だぜ? おめー10代の精力舐めてんのと違う、それにシーザーはぜんぜん乱れてくれてねえし」

 淡々と不満を口にするジョセフに、シーザーはサッと血の気が引くのを感じる。今まで彼と体を重ねた回数は片手で足りるほどだが、どれももれなくジョセフが達したと同時に行為は終了していた。シーザーはもともと性欲が強い方ではないうえにプライドが高く、快感を追いかけることよりも自身の腑抜けたところを見られる抵抗感の方が強い。達していないことを目ざとく見つけられ、交合を解いたあとにジョセフの手でしぼり出されることもあったが、自身の快楽よりもジョセフが自分の体に感じ入ってくれていることが何よりの喜びであった。

 そんな風であったから、シーザーは今までベッドの中でもつとめて自制的に振舞っていた。淡白といわれても仕方ないとは自覚していたが、ジョセフはそのシーザーの乱れるところが見たいと言う。
 これまでは、翌日も激しい修業が控えていることから交わるのは毎晩1回きりだった。それが、今日に限ってはジョセフは続行する気満々のようだ。「おれの下で乱れてくれよ」と鼓膜に直接吹きこまれるように囁かれ、つながったところをもう一度揺さぶられるとシーザーはもうだめだった。そんな姿見られたくない、だとか明日の修行に障る、だとか胸中で駄々をこねてみても、こみあげる愛しさがのみこんでしまう。

 好いた男にどろどろにとかされる覚悟を決め、投げ出していた右手でジョセフの鼻をつまんだ。なにすんだ、と言いたげな瞳に「……お手並み拝見、だな」と甘い声でつぶやくと、答えもなく覆いかぶさった男が動き始める。甘やかしすぎてるな、と自嘲気味に考えるシーザーはずるりと引き抜かれる感覚に息を詰めた。

 潤滑油に加え、先ほど吐き出したジョセフの精液によってシーザーの中は液体で満たされていた。そこをジョセフの砲身が出入りすると、それだけで耳を覆いたくなるような音が立つ。おまけに達したばかりのシーザーを気づかうことなく熱をぶつけてくるものだから、受け止めきれないほどの激しい快感に呼吸がひきつれる。酸素を求めて開きっぱなしの唇から唾液が伝った。

「ンぁ、はげし、ンンッ」
「は……イったばっか、でつらい、とか?」

 奥を穿つ動きを止めずに問いかけるジョセフに睨みつけるような視線を送るが、下腹部に伸ばされた手によってすぐにその目もとは蕩ける。律動に合わせて揺れるそこはすっかり張りつめ、とろとろと雫をこぼしていた。ジョセフの大きな手で数度しごかれ、シーザーの腹が波打つ。

「ああアッ、ジョ……ッ」
「すげ、締まる……っ」

 大きな快感に翻弄されてシーザーの体が反応した。幹を擦り、先端をくじるように指を動かすと後ろがきゅうきゅうと締めつけてくる。自分の手で年上の恋人が感じている喜びにジョセフは目を細めるが、シーザーの唇から「いや、だ……」とかすかな声が漏れてその顔色をうかがった。素直ではない彼の拒絶はときとして肯定を表すが、表情を見なければわからないこともある。見つめられていることを悟ったのか、閉じられていたシーザーの瞼が上がった。明るいグリーンの瞳は涙の膜に覆われていて、その色に欲望が刺激される。

「やだ、ジョジョ、も……っ」
「ンー? 気持ちよく、なァい?」

 手も腰も動きを止めないまま聞くと、「だからっ……」と切羽詰まった声が返る。持ちあがった左手が彼の顔を隠してしまって、もったいないな、と一瞬に考えた。

「よすぎ、て……おかしくなる、」

 半分だけ覗いた顔にそんなことを言われて途端に下腹部が重くなった。その言葉だけでイキそうになったのをなんとか押しとどめて、ジョセフはシーザーの膝裏に手を入れる。交わる角度が変わり「あ、ヒ」と喘ぐ声が聞こえた。今の一言でさらに硬くなったことを自覚しながら、持ちあげた腰の最奥めがけて熱を叩きつける。シーザーの口から裏返った悲鳴が漏れた。

「おま、エロすぎ……しんじらん、ね」
「あ、ああ、ンァアッ」

 ぐずぐずに濡れたところを遠慮なくえぐる。性器を引き抜く動きに合わせて、泡立った精液がぐちゃりと音を立ててこぼれた。頭の芯までとけそうなセックスに溺れる。シーザーの体を無理やりに折り曲げて、母音しか吐き出さないその唇をふさぐ。うまく呼吸もできないのか、それだけで後ろがきゅんと締まった。

「ジョジョ、あ、も、イく、から……ッ」
「イけ、よ、シーザー……」

 言って、熱い先端で彼のいいところをこすってやる。合わせた唇の隙間から「あ、ああ」と声が零れて、抱えた足にぶわ、と鳥肌が立ち、二人の腹の間にシーザーの精液が広がった。ジョセフもおさえこんでいた熱を解放し、ねばつく精を注ぎこむ。腰が浮きそうだ、と思った。

「……抜けって」
「……ちょっと、余韻なさすぎでない?」

 射精直後の感覚に脱力したジョセフがシーザーの肩に頭をすりつけると、とたんに冷たい言葉にあしらわれる。常より掠れた声が情事後であることを端的に表していてたまらなかった。それでももう一戦申し込めば今度こそ容赦なく殴られる予感がして、ジョセフは大人しく従う。大きな塊がずるずると抜け落ちる感覚にシーザーの背が震えた。

「……風呂」
「は?」
「風呂連れてけったんだよ、このままじゃ寝られねえだろうが」
「あー……なるほどね、了解しましたァン」

 次々に降る要求に苦笑しながら応える。気分は姫君に仕える騎士だ。もっとも、そんなことを口に出せば「女扱いするんじゃねえ」とシャボンを飛ばされることだろう。
 二人分の体液で濡れた体を起こし、立たせてやる。ジョセフの腕力をもってすればシーザーを抱きあげることも不可能ではないかもしれないが、実行するにはいささか疲れすぎていた。部屋に備え付けのバスルームまで連れていきながら、すぐそばのこめかみにくちづける。

「シーザーちゃん、最高にかわいかったぜ」
「……今度はお前にキスの波紋を仕掛けてやるからな」
「オーノー! おれの体を操ってどうするつもりかしらン、シーザーったらやらしー」
「言ってろ、スカタン」

 お互いに体は疲労しているが、じゃれあう口は軽い。こんな風に受け入れてくれる恋人に少しでも不満を抱いたことをジョセフは反省していた。いつでも兄貴ぶるところが憎らしくて、だけどその殻をすこしずつ剥いでいくのがたまらなく楽しい。今日一日の間にシーザーのいろいろな表情を堪能できた嬉しさに、意識せず鼻歌が出る。調子乗んなアホ、と背中を軽く叩かれた。

(……にしても)

 足元がおぼつかないシーザーをエスコートしながら、意識は時間を遡る。「よすぎておかしくなる」、なんて。とびきりの殺し文句に、思い出しただけで頬が熱くなった。信じられねえスケコマシ、と口の中だけで呟く。視線を斜め下にやればシーザーの金色の睫毛が動くのが見えて、それがやけになまめかしく映った。

(乱れたシーザーってああなるのか……今まで知らなくて、よかったかも)

 だって、知ってしまえば求めたくなるから。おれが毎晩一度きりのセックスに満足できなくなったらそれはシーザーのせいだぜ、と胸中でひとりごちる。バスルームの冷気にか、これから降りかかるであろう自身の災難を予感したのか、シーザーの背が一度ぶるりと震えた。